運動機能麻痺のリハビリ医療へ、鍼灸界からのイノベーション。
鍼灸接骨院を経営しているという男性から、脳波解析システム(FM-717とパルラックス2)の購入に関する質問メールが来た。
ネット検索してみると、「脳卒中の後遺症に驚きの活脳鍼」という本を著しておられることが分かり、さっそく購読した。
この本の50ページに、氏のユニークな仮説が次のように述べられている。
「鍼を刺すことによる刺激が脳に伝えられ、その結果、手足の運動を抑制しているシステムが解除される、ということです。たしかに、脳の運動を司る細胞を活性化するということも十分考えられますが、瞬時にあらわれる効果を目の前にすると、どうしてもこの仮説にたどり着かざるを得ないのです。」
面白い見解だと思った。
クライアントの能力開発をサポートする際にも、最も重要な取り組みの一つが、過剰に働いているメンタルブロック(心理的遮断)の解除である。
氏は、脳卒中で半身麻痺となった患者の快復が進まないのは、患者自身の「もう動かない」という思い込みが一つの大きな原因になっているとおっしゃっているのだ。
そして、その思い込みに活を入れるのが鍼刺激であると主張され、そのエビデンス(根拠)として右背外側前頭前野(46野)のアルファ波が増強した脳波マッピングを掲載されている。
この背外側前頭前野は“ワーキングメモリー”とも呼ばれる部位で、高次の認知活動を司っている。背外側前頭前野の左右差を研究した論文もあるので、この辺を詰めていくと益々面白い謎解きが顕れる予感がする。
簡易脳波測定器の注文を正式に頂き、8日に三鷹の治療院を訪ねることになった。納品かたがた取材をさせて欲しいとお願いした。
当日は、脳波研究を担当される川崎主任に使い方をレクチャーした。その後、お忙しい中時間を取って頂き、施術ベッドの傍らで氏に取材した。
氏はグループ企業のオーナーで、お名前を高橋龍榮氏という。低くて大きな声、そして速い口調で施術室に入ってこられた。
挨拶もそこそこに、さっそく取材を始めた。1時間半の間に、高橋先生の提唱される「活脳鍼」とは何なのか? 私の見解も添えつつ矢継ぎ早に質問した。
本を出版された後も、医療用脳波計や光トポグラフィで実証研究を重ねられており、新たな仮説も聞くことができた。
活脳鍼を施すと右背外側前頭前野のアルファ波が増強して「もう動かない」という患者の思い込みを解除するという高橋先生の仮説を既述したが、もう一つの側面を話して頂いた。
それは、活脳鍼によって右側頭葉のベータ波が増強するということ。この現象を、手足が動いていたときの記憶を喚起しているのではないかと解しておられるそうだ。
いずれも仮説の段階だが、施術の効果はてきめんである。「動く」という結果が欲しい患者にとっては、大きな希望だと思う。
救命医療の発展で、脳卒中による命の危機から生還する人が増えている。しかし、次のステップのリハビリで挫折してしまっている人も多い。
高橋先生はCI療法に活脳鍼を加えることで、リハビリ医療にイノベーション(革新)を起こそうと、現在精力的に活動されている。
CI療法(Constraint induced movement therapy)とは、脳卒中や脳外傷で半身麻痺となったときのリハビリ法の一つである。正常な側の手や足などの動きを制限し、微かに動く麻痺側の手足だけで作業して回復を促進しようとするものだ。
治療院で患者のリハビリを支援しながらエビデンスも揃えて、リハビリのEBM(evidence-based medicine. 根拠に基づいた医療)を構築されようとしているのだ。
高橋先生の治療院では、脳卒中後遺症のリハビリにとどまらず、不眠や鬱の改善、学習能力の向上、軽度認知障害の克服などと、活脳鍼の適応をさらに広げていかれるそうだ。
りゅうえい治療院のHP
http://ryuei-chiryoin.com/
活脳鍼の施術によって患者の手足が動くようになる「術前/術中/術後」の映像
http://www.ne.jp/asahi/tattyan/kenkoukouza/Site/sinkyutiryou/katamahi.htm
今回の取材の様子を掲載した弊社ウェブページの「脳波解析システムを導入して頂いている施設」紹介コーナー
http://www.selsyne.com/aim/products/fm-717/index.htm#sisetu
今回納品した簡易脳波解析システムが、高橋先生の臨床的実証研究の更なる発展に貢献することを期待している。
セルシネ・エイム研究所 和田知浩
http://www.selsyne.com/aim/
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