NHK Eテレ「テストの花道」~集中力を支配する!~(4.29OA)。脳波解説の捏造にもの申す。
NHK Eテレ「テストの花道」は、私の好きな番組の一つだ。大学受験に挑む高校生達の勉強を応援するテーマで、30分の放送時間に良くまとめられている。大人の頭脳活性化にも大いに役立つ。
しかし、先月29日にオンエアされた「集中力を支配する!」の回では、看過できない捏造が行われた。
“集中力”をテーマとした内容は関心が高く、弊社への問い合わせも多い。
昨年10月にオンエアされた同番組「集中のスイッチON!」の回では、集中力と脳波について同番組の制作スタッフから取材も受けている。
テレビを観る側だった昔の私は、テレビ番組などで“脳波”が変に扱われると、その都度ウェブ上で指摘や反論をしていた。
しかし、テレビ番組に出る側となった今は、いちいち指摘することは無くなった。“人の振り見て我が振り直せ”で精一杯だからだ。自分が関わった番組のオンエアを観て、“後の祭り”感を味わったことも少なからずある。
間違いは誰にでもあるし、意思疎通を欠いたことが原因だったりすることもある。それぞれにそれぞれのプレッシャーもあるだろう。
ただ、今回の同番組の脳波解説は、“捏造”と指摘せざるを得ない。番組内容の全体は良かった。それだけに、“脳波”だけが歪めて使われたことに憤っている。
以下の斜体文は、同番組ウェブサイトの「集中力を支配する!」の回の紹介文である。
「勉強に役立つ集中力スイッチON&OFFのコツをキミに伝授!さらに、集中力が必要とされる各界のプロが秘策を紹介。集中力を思うままに支配するノウハウの数々を送る。・・・好評のテーマ“集中力”。今回は、集中力を自在に支配するチカラを伝授。物事に集中できないのは、脳の中が散らかり、一つの作業を効率よく行えない状態。いわば、まな板の上に、ものがいろいろあって調理できないようなもの。キミの“脳のまな板”を使いやすくする秘策と、集中力を完全には切らさず、思いのままに回復させる極意を紹介。所ジョージ顧問、城島茂部長も、目からウロコのノウハウが満載だ!」
ちなみに、今回番組で使用された脳波解析システムは、弊社が販売/レンタルをしている脳波測定器「アルファテック4」と、これに付属している脳波解析PCソフト「マインドセンサー5」である。
それでは、問題の部分をピックアップしていこう。ナレーションは斜体で記す。
「今回は、集中していると現れる脳波、α波を測定する。」
「集中している状態だと、α波は高い値を示し、さらに、増減も少なく安定する。これはまさに理想の状態。」
「それに対し、集中していないとα波は安定せず、ご覧のように激しく上下動を繰り返す。」
「まさに、集中の度合いがそのまま波形に現れるのだ。」
「集中するとα波が高い値で安定し、集中していないとα波が激しく上下動を繰り返す」とのくだりは少々問題がある。集中していないとそもそもα波は高く出ず平坦に近い。集中していないのにα波が激しく上下動するなら、それは眼球運動に起因するノイズの混入である。また、集中するとα波が高くなり、むしろ激しく上下動する。高いレベルで安定するという状態は特殊な状態で、一般的な測定現場でお目に掛かることはまず無い。
ただし、この程度のことなら看過できる。“見解の相違”と言われればそれまでのことだ。
番組は次のように続いた。
「まずは、普段の状態を知るために、おしゃべり中の集中力を測定。話題があっちこっちに飛び、注意も散らばり続けるため、α波の波形は激しいキザキザを記録している。」
「ここでおしゃべりをやめ、単純な計算問題を行ってもらった。黙々と計算をこなしていくれな。しかし、波形は乱れた状態のまま。つまり、計算問題を始めても、いまだに気が散り続けているのは一目瞭然。」
この後、集中力を高めるための方法が紹介された。そして、それを実践した被験者(れな)が改めて計算問題にチャレンジし、その脳波が測定された。
「それではトレーニング前と比べてみよう。分かるかなー。トレーニングの効果により、グラフのギザギザが少なくなっている。つまり、集中力にスイッチが入り、それが保たれている状態なのだ。トレーニング前と比べれば、その差は歴然。」
このシーンが問題だ。そして、屁理屈を通すために脳波再生グラフを捏造している。
集中度を測るα波の見方として、番組が紹介した文言を再度確認しよう。
「集中するとα波は高い値を示し、増減も少なく安定する。集中していないとα波は安定せず激しく上下動を繰り返す。」
すなわち、α波の“強さ”と“安定”を集中力トレーニング効果を判定する指標としている。
この指標で上の比較グラフを見て、あなたはどのように判定するだろうか?
まず、強さは・・・。赤い横線(スレッショルド。ユーザーが任意に設定できる。同じ数値に設定していると信じよう)を超えた回数は、トレーニング後の方が約半分に減っている。最高ボルテージもトレーニング前の方が高いし、平均ボルテージもトレーニング前の方が高いように見える。
今回のように目を開けて作業する状態で、額から脳波を正確に測るのは難しい。アーチファクト(眼球運動などで生じる人体的なノイズ)が混入しやすいからだ。面倒でも、電極ペーストを使って髪の毛のある部位から測定するべきである。
さて、安定は・・・。これが、今回の捏造の核心である。確かにキザキザが減って安定しているように見える。しかしこれは、「マインドセンサー5」の時間軸の送り幅を画面上で長く(時間ブロックを小さな数値に設定してクローズアップ)する機能によるものである。
波形が安定したわけでなく、トレーニング前のグラフよりも時間軸を伸ばして再生しているのである。オンエアされた動画を見るとよく分かるが、トレーニング前のグラフを再生する時は青い縦線が細かく進み、トレーニング後の時は大幅で進んでいく。
よって、トレーニング前と後のグラフでは、後の方が「マインドセンサー5」の画面上では早く進んでしまう。それがほぼ同じ所要時間となるように、番組の編集では“早送り”の速度を調整している。
なぜこんな捏造をしたのだろうか? 脳波は正直である。集中力トレーニングに効果があるなら、必ず脳波に現れる。期待した脳波が出ないなら実験方法を吟味して欲しかったし、別の指標(脳波の別の視点)を見ることもできる。それでもだめなら、脳波実験は潔くボツにして欲しかった。
この捏造は視聴者をバカにしているし、脳波測定に従事している我々にも失礼だ。そして、出演者もだましている。たぶん。
そもそも、折れ線グラフが安定している方が良いとなぜ思っているのだろう。繰り返すが、集中力が高まりα波が賦活してくると、グラフはむしろ激しくキザキザになる。高いレベルで安定して推移するというのは特殊な例だ。
もしかすると、「脳波の原波形」と「脳波周波数スペクトルの折れ線グラフ」を混同しているのではないだろうか?
このグラフは、「マインドセンサー5」で再生した脳波の原波形と各周波数のスペクトル棒グラフだ。左がβ波優勢時、右がα波優勢時のグラフである。
β波優勢からα波優勢に変わると原波形は滑らかになる。分散緊張集中のβ波に比べて、落ち着いた一点集中のα波の方がキザキザ感は減る。そして、ボルテージも比較的強くなる。
この番組は、明日4日(土)午前10時に再放送される予定だ。
追記2013.5.21
問題の部分をピックアップして動画を編集しました。
追記2014.6.10
動画を配慮版に差し替えました。
https://selsyne.com/aim/audiovisual/contents/0062.mp4
セルシネ・エイム研究所 和田知浩
http://www.selsyne.com/aim/
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コメント
受験生さん、コメントありがとう。
良い番組なだけに、脳波が安直に捏造されたことは遺憾でした。
挑戦する瞬間瞬間にも宝があります。受験勉強頑張って下さいね。
投稿: 和田知浩 | 2014年9月26日 (金) 02時26分
NHKにだまされるところでした
本当にありがとうございます
投稿: 受験生 | 2014年9月26日 (金) 01時54分