セルシネのテレビ番組協力史上最大のピンチが発生。NHKBSプレミアム「仮説コレクターZ」からのオファーで、仮説「女性は夫や彼氏がイライラすると幸せを感じる」を脳波測定で検証して。
絶体絶命だった。
脳波測定サービスをテレビ番組に提供し始めてかれこれ10年になるが、あんな絶体絶命の大ピンチに陥ったのは初めてだ。
それは、ロケ現場で脳波測定器をセッティングしているときに起こった。今思い出してもぞっとする。
NHKBSプレミアムの番組「仮説コレクターZ」が検証する今回の仮説は、「女性は夫や彼氏がイライラすると幸せを感じる」である。仮説提唱者はハーバード大学のコーエン博士らだ。
番組制作会社のディレクターとADがセルシネに来訪されたのが5月14日だ。
検証実験で男性をイライラさせる方法や脳波測定の方法などを打ち合わせた。
男性をイライラさせるために「細かな作業」をしてもらう予定とのこと。ここで一つアドバイスした。実は、「細かな作業」をすると頭はスッキリしてα波が良く出る場合があるのだ。即ち、“弛緩一点集中”である。
例えば、絵本「ウォーリーをさがせ!」に取り組んだときのような頭スッキリ効果だ。
よって、確実にイライラしてもらうためには、それなりのプレッシャーや突っ込みを入れることが必要なのである。
さて、そのイライラしている様子を見ている妻や彼女は、仮説通りに幸せを感じるのだろうか?
目を開いた状態の脳波を測るので、本来ならば万能脳波センサー「エンフレック」を用いて髪の毛のある部分を測定したいところだが、手軽さを優先してカチューシャタイプでおでこから脳波を測定することとなった。
但しこれではノイズが大きいので、観察直後の余韻が残っている内に閉眼安静の脳波も測ることにした。
使用する脳波測定器は、測定グラフが視聴者に分かりやすいという理由でBrainPro-light「FM-828」に決まった。
ロケは5月17日、表参道から歩いて1分ほど入った所にあるスタジオで行われた。入り時間は8時30分、近くで時間調整して5分前に入った。
既にクルー達は着々と準備を進めていた。皆さんに挨拶をして、私も準備に取りかかった。脳波測定器の電源はバッテリー2個とACアダプターを持参していた。
撮影に適した場所に脳波測定器とPCを設置し、ケーブルを繋いで電源を入れた。
準備完了である。
試しに予備のバッテリーを脳波測定器に繋いで電源を入れた。すると脳波測定器の液晶画面がおかしい。真っ黒になっている。あれっ?
ここですぐにバッテリーを元のに戻せば、事なきを得たかもしれない。
ところが、魔が差した。
このまま接続しておけば安定するかもしてない、と。
そのままにして、番組スタッフと撮影手順を改めて打ち合わせた。10分程して脳波測定器に目をやった。すると液晶画面が消えている・・・。バッテリーが故障したんだなと思い、最初のバッテリーに交換し電源を入れた。
しかし電源が入らない。ACアダプターに差し替えても入らない。
電源スイッチをカチカチやった。・・・駄目だ。
血の気が引いた。
ノイズの影響で脳波測定環境が整わない場合はたまにある。そんな時は、電磁的ノイズを突き止めて対処する。何とかなるものだ。しかし、脳波測定器がうんともすんとも言わないのにはお手上げだった。万事休す・・・。
10名ほどの撮影クルーが準備を進めている。まだ見ていないが、仕掛け人(出演占い師)や被験者のカップルも5組来ている。私の失敗でこのロケを台無しにしてしまうのか。
消えてしまいたい感情に一瞬襲われた。が、そうはいかない。ここからでも何とか挽回して遣り終えなければ。
ロケスケジュールは、まずMCの登場シーンと被験者インタビュー、諸々のインサートを撮影。そして、10時から検証実験がスタート、あと1時間と10分だ。
練馬の自宅(セルシネ)に戻って別の脳波測定器を持ってくるとしたら往復で2時間半はかかる。とても間に合わない。タクシーを利用すれば短縮できるかもしれないが正確な時間が読めない。
近くのクルーに改めて検証実験の開始時刻を確認した。
「10時だけどちょっと押してる・・・」
ディレクターに事情を説明し、お詫びと代替器を取ってきたい旨を伝えた。当然お詫びだけでは済まないことも覚悟した。今回の脳波測定サービス料金は頂けないかもしれない。更には損害賠償を払わなければならないかもしれない。そんなことも頭をかすめていた。
ディレクターはすぐにロケバスの運転手を呼び、私を乗せて練馬へ行くように指示して下さった。
ロケバスに乗り込み、運転手さんに「環七から向かって下さい」とお願いした。「ナビに入力するんで住所を教えて・・・」と運転手さん。
自宅に着いてから代替器を用意するシミュレーションを、ロケバスの中で何度も何度も繰り返した。こんな手間を掛けさせた上に、もしも忘れ物をしてしまったら救いようもない大馬鹿者だ。
自宅にも電話した。万が一にも入られないということが起きないように。
40分程で自宅に着いた。運転手さんに「10分程かかるかもしれません」と告げて、ロケバスを飛び降りた。
自宅に入って、まずトイレで用を足した。落ち着いて・・・。
今回使用するはずだった脳波測定器「FM-828」の予備がないので、同じパソコン画面を表示できる「FM-717」を一式、念には念を入れて「FM-515A」も一式バックに詰め込んた。
現場に戻るロケバスからADに電話を入れた。「今折り返しています・・・」
到着したのは10時半頃だったか。
撮影中も幾つかスムーズに行かないところがあったが、皆さんに協力して頂きながら何とか無事に終えることができた。終了間際に「FM-717」の状態もおかしくなったが、原因を探ることなくすぐに「FM-515A」に差し替えて事なきを得た。
翌日には、脳波測定PC画面を動画化(mp4ファイルに)して提出した。その上で、今回の脳波解析に関する意見交換をディレクターと電話した。
その後、MCの劇団ひとりさんと中村アンさん、タレントの杉本彩さん、精神科医高木希奈さんによるスタジオ収録が行われ、今月11日にオンエアとなった。
ご主人若しくは彼氏が喜んだりイライラしている様子を別室から観察する女性。その脳波を測定した。
今回はβ波とα波を単純に比較するだけで、特別な指標の構築はしていない。くれぐれも今回の実験結果を以てカップルの関係がぎくしゃくすることがないよお願いしたい。暗示効果は怖いのだ。
番組コーナーの最後にも「仮説の使い方にはくれぐれもご注意下さい」とのナレーションが入った。
なお、番組制作会社のディレクターとADは、本番組のエンディングロールでは別の役職が付されていたこと、誤解が生じないよう念のためお断りしておく。
絶体絶命のピンチから、皆さんの支援で起死回生することができて本当に良かった。感謝。
脳波測定器「FM-828」の電源が入らない件は、メーカーに点検修理してもらった。ヒューズが切れていたので交換したとのこと。念のためバッテリーも点検してもらったが異常はないとのこと。
メーカーにも伝えたが私には心当たりがある。ロケの前日にバッテリーを充電した際、1個のバッテリーは充電が完了してからも数時間放置してしまっていたのだ。これが過充電を生み、「FM-828」のヒューズに高負荷を掛けたのではないか?
もちろん充電器にはオートストップ機能があるはずだが、私の懸念は払拭できていない。弊社ウェブサイトの脳波測定器用バッテリー紹介コーナーの「辛口コメント」欄に、この懸念を掲載した。
メーカーには原因の根本的な究明と改善を求めたい。
それはそれとして、セルシネの脳波測定サービスとしても、効率的/効果的なフェイルセーフをどのように構築するのかが課題である。
セルシネ・エイム研究所 和田知浩
http://www.selsyne.com/aim/
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