vol.325 目覚めが悪い芸能人を起こす方法の第二弾。毎日放送「林先生の初耳学」からのオファーで“わさび臭”の目覚まし効果を検証。
前号『目覚め方のコツと重要性。毎日放送「林先生の初耳学」~誰でも起きられる目覚まし音を作れる?~で、終夜睡眠脳波を測定して』にて紹介した番組の第二弾が今月6日に放送されたので振り返る。
前回、特殊な警報音でも目覚めなかった松丸亮吾さん。彼を起こすために名乗りを上げたのが滋賀睡眠クリニックの今井眞院長だ。
起こす手段は“臭い”だ。
臭いが人にどのような影響を及ぼすのかを調査した脳波研究は過去にごまんとある。
私も例えば、以下のような実績があり枚挙に遑が無い。
筑波大学大学院の生命環境科学研究科が実施した研究「大自然の土壌に触れ/嗅ぐことが人の精神活動にどのような効果をもたらすのか」をサポート。
(一社)日本メンタルアロマ協会と「香りに対する反応や感情を手掛かりに無意識を探究し、問題解決や自己実現のヒントに気づくメソッドの効果測定」を協同研究。
読売テレビ「かんさい情報ネットten」のカラクリコーナーからのオファーで「バラの香りが人に及ぼすリラクゼーション効果」を検証、等々だ。
目覚めた直後に臭いを嗅がせて気分を誘導しようとする研究もある。
しかし、“目覚めの悪い人を臭いで起こす”という発想はなく、当然そのような脳波測定経験もなかった。
ところが、今井先生のチームではこれまでに“臭いで起こす研究”を進めてこられて、そのユニークな研究成果で2011年にはイグ・ノーベル賞を受賞されたそうだ。
聴覚に障害がある人にも危険発生の警報を届ける手段としても既にホテルなどに導入されているとのこと。なるほど・・・
今回の実験では、三段階の臭いが用意された。
「好きな朝食のにおい」「生ごみの悪臭」そして「わさびの刺激臭」だ。
松丸さんの好きな朝食は、架空医療番組の事前アンケートで分かっている。
目覚めさせ方のポイントは“確実性”と“爽快性”の両立である。
好きな朝食のにおいが漂う中で目覚められたら、気分爽快で一日のスタートを切ることができるだろう。
今回の臭いの最終兵器はわさびの刺激臭である。これには意味がある。
単に激辛臭で叩き起こすなら、唐辛子に含まれるカプサイシンがある。ところが、このカプサイシンは親油性であるために舌などの口腔に長く残る。早く洗い流すためには、脂肪分を多く含むヨーグルトなどを食べる必要がある。
一方、わさびの辛味成分であるアリルイソチオシアネートは揮発性が高く、すぐに鼻腔をツーンと抜けて辛さ(痛さ)が尾を引かない。よって、部屋を漂うアリルイソチオシアネートさえ無くなれば、或いは自身が部屋を出さえすれば辛さは解決するという大きな利点があるのだ。
前回の振り返りでも述べたように、番組の趣旨として「普段通り充分に寝た朝方に覚醒させる実験」なので、上段の熟睡脳波グラフの一番左のデルタ波帯域の電位はそれほど高まらない(赤くならない)。
デルタ波(徐波)の強さで睡眠深度を測るというよりは、REM睡眠だから目覚めにくい(熟睡)という判断である。
また、下段の起きている脳波グラフのデルタ波帯域が赤くなっているが、これはデルタ波が強く出ているのではなくて、目覚めて表情筋が緊張したために同帯域に生じた筋電ノイズである。
今回の松丸さんは、ベッドで30分程読書した後にすんなり入眠した。
次のOA画像の脳波は、睡眠のいわゆる90分サイクルを何回か繰り返した後のものだ。デルタ波モードでありつつ、アルファ波とベータ波の境界付近にも電位が立っている。睡眠紡錘波(Sleep spindle)と呼ばれる脳波で、外的刺激(騒音など)をキャンセリングして睡眠を維持しようとするときにも観察される。
この帯域の脳波が目覚めているときに出ると、いわゆるゾーン状態で物事に集中していることを示すものだ。
睡眠実験やテレビ番組のロケでは、被験者が緊張して綺麗な睡眠脳波が取れないこともある。例えば、デルタ波の電位が低かったり、ベータ波がうっすらとチラチラ出続けるなどだ。
前回のプロレスラー天山広吉さんは、深酒で一度は気絶するように眠ったものの、それ以降は眠れずに朝までモンモンとしていた。
そして今回のもう一人の被験者であったりんごちゃんは、ベッドに就くことすらできなかった。
松丸さんの睡眠サイクル1回目の徐波睡眠がこれである。素晴らしい熟睡だ。この睡眠脳波グラフにも惚れ惚れした。
さて、松丸亮吾さんを今回は目覚めさせることができたのか?
OA動画が番組の公式YouTubeチャンネルに「芸能界イチ起きられない男・松丸亮吾をわさびで叩き起こす!!」のタイトルで公開されている。ただし、タレントさん達のスタジオトークやワイプ抜きが無いバージョンだ。
前回はアパホテル〈六本木SIX〉、今回はアパホテル〈新宿 歌舞伎町タワー〉の1フロアを借り切ってのロケだった。心遣いが行き届いたアパホテルいいよねー。準備万端整ってからロケ開始の合間に、元谷芙美子社長の著書も拝読した。
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感謝。
セルシネ・エイム研究所 和田知浩
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