vol.331 寝酒がモンモンタイムを誘発するメカニズム。脳波観察と化学反応で考える。2021.7.14
先月投稿した前号と前々号で睡眠脳波にまつわる解説をしてきた。
その3回目として、酒類を過度に飲んで就寝したときの睡眠深度の推移を脳波測定の視点から紹介する。
テレビ番組からのオファーで数名のタレントの終夜睡眠脳波を測定した際、あるタレントが過度の寝酒で睡眠異常(ちょっと大袈裟だが、これが続くと日中に眠くなったり集中力や記憶力の低下といういわゆる睡眠障害を発症する)を来した例だ。
脳波測定に用いたアプリは「Analyzer+」だ。「Analyzer+」を用いた睡眠脳波の測定例と解説は、弊社ウェブサイト「睡眠脳波ラボ」で紹介している。
この「Analyzer+」画面の上段が脳波の生波形だ。睡眠深度を示す特徴的な波形を観たり、ノイズ混入の有無を判断する際に役立つ。
2段目は各脳波(定常波。δ波やα波など)のスペクトル(周波数毎の電位)で、左から右へ(この画面では)1時間の推移を表示している。
中段左側には、(この画面では)1分間幅に拡大してスペクトルを表示する。
そして右側が分布グラフである。上から下に時間が1秒毎に流れながら3分幅で表示していく。横軸は1.0Hzから30.0Hzまでを0.5Hz刻み(計59本)で、定常波の強さを色で表している。
以下の画像は、「Analyzer+」の画面からスペクトル折れ線グラフと分布グラフをピックアップして、尚且つ分布グラフは横向きにして3分幅をつなぎ合わせて折れ線グラフと時間軸を合わせたものだ。
さらに、折れ線グラフも2時間目をつなぎ合わせている。時間表記などが見えにくいと思うので、もう少し大きな画像もここに掲載しておく。
①の1分07秒間は、被験者が寝酒を終えてベッドに就寝しようとしているときだ。動きつつ目も開いているのでノイズが多く混入している。
脳波センサーを装着してから被験者の長く大量の寝酒が続いたので、ここへ来るまでに2時間近くモニターを見ながら待機していた。
②の9分26秒間は、目を閉じた安静状態でαモードになっている。但し体動も残っていて、その際に生じるノイズがδ波の帯域に赤く表示されている。
③の13分45秒間は、入眠と覚醒を繰り返すうとうと状態であることを断続的なα波が示している。熟睡前の最後のα波途切れがトータルで約24分経過したときだ。ここが正式な入眠ポイント、寝落ちである。
そして、27分を過ぎた辺りからδ波が強くなり始めて徐波睡眠に入ったことが分かる。④である。
ここまでは平均的な入眠パターンの範疇である。若干③のうとうと状態が長いかなという程度だ。
過度の寝不足や深酒して就寝すると②が極端に短いので「寝酒したときの入眠は気絶と似ていてあまり良くない」とたまに解説するが、この測定では被験者にテレビ番組の収録という緊張が頭の片隅にあったのか、②のαモードも一見健康的に継続した。
④の徐波睡眠(ノンレム睡眠)が少し長いなと感じ始めたころ“悲劇”が展開し始めた。就寝から約98分(1時間38分)、徐波睡眠が71分(1時間11分)続いてからのフェーズ転換(δブロッキング)である。
⑤のように、継続していたδ波が断続的となり、逆にα波が断続的に出現し始めた。これが約9分続いた。
そして、⑥のαモード(完全な覚醒)が8分弱続いた後、⑦のモンモン(悶々)タイムの泥沼に突入した。ここから夜が明けて時間切れとなるまでの約5時間、ずーっとモンモンとしていたのである。
被験者は辛かったと思う。
適量を超えて寝酒すると、体内では次のような化学反応が起こる。
アルコールには入眠効果がある。この作用で済むなら問題ないのだが、体内に取り込まれたアルコールはアセトアルデヒドに変わり、そして酢酸になる。
このアセトアルデヒドの段階が安眠を阻害するのである。
飲酒による睡眠効果は④までである。但し、この④も前述のように少々長い。そして、血流に乗って脳に運ばれたアセトアルデヒドが悪さをし始めたのが⑤である。
健康的な眠りならレム睡眠の後にノンレム睡眠(徐波睡眠)へと再び移行するのだが、残念ながら⑥のように覚醒させ、本人の“眠りたい”気持ちをアセトアルデヒドの覚醒作用が立ちはだかり、焦りの悪循環に陥った。
その焦りが⑦に表れている。
アルコールのδセービング作用はすぐに消滅し、アセトアルデヒドのδブロッキング作用が一晩中働き続けるのだ。
飲酒は適量の晩酌までとし、寝酒はやめた方が良い。
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