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2021年9月20日 (月)

vol.332 本気チャレンジの遊びが、普段の脳波測定実験では得られない知見を提供してくれた。TBSテレビ「水曜日のダウンタウン」からのオファーを振り返る。2021.9.20

今月15日、TBSテレビ「水曜日のダウンタウン」で私が脳波測定協力したロケの様子が放送された。おもわず声を出して笑ってしまうほどの楽しい番組だったが、脳波の視点からは分かりづらかったと思うので、さっそく振り返りながら解説したいと思う。

 

ロケは7月31日から8月5日に掛けて赤坂のTBS社屋で実施され、4名のタレントさん(安田大サーカスの団長安田、サンシャイン池崎、オードリーの春日俊彰、マヂカルラブリーの野田クリスタル)の脳波を測定した。
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この件で初めて番組スタッフから電話を頂いたのが、ロケスタートの前々日7月29日。

 

ダウンタウンの冠番組からの問い合わせはこれまでにも何度かあるが、実現したことは無かった。恐らく今回も話しだけになるだろうと思いながら測定環境や受注条件などの摺り合わせをしたのだが、予想に反してすんなりと実施が決定した。

 

企画内容は、「滑車を通して頭上高く吊した“たらい”に結ばれたロープの一端を握って寝たとき、意思が強ければロープを手放さずに眠り続けられる」という説を検証したいというもの。

 

こんな説を誰が言っているのか? 無理に決まっている。入眠判定の指標の一つに筋肉の弛緩があるほどなのだから。

 

4年前に放送されたテレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」でも、スプーンを指に挟んで仮眠するとスッキリと目覚めることができるのかを検証した際に、私は脳波測定で立ち会っている。

 

その模様はブログ「vol.290 『仮眠のうまいとり方・・・。テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと。くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」からのご用命で。』 2017.5.30」で紹介している。

 

入眠と筋弛緩はセットなのである。

 

よって、ロープを握ったままだと入眠できない、入眠するとその瞬間に手が緩んでたらいが落ちる、そうなるだろうと予想してロケに臨んだ。

 

ところが、現場で渡された台本には、「入眠したら検証スタート」と書かれていた。

 

これでは、検証がスタート出来るか出来ないかという検証実験になってしまう。入眠しても実験が続くことはほぼあり得ないのだから。

 

スタッフにその旨を伝えるとすぐにディレクターを呼ばれた。

 

このグラフ(ディレクターにお見せしたグラフは90度回転した縦長のグラフだが)を示しながら、入眠判定の方法をディレクターに伝えた。ディレクターも事前にスタッフから報告は受けていたようだったが・・・。
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縦軸が周波数で脳波の帯域(α波やβ波など)を示し、横軸が時間で左から右に進む。

 

まず、目を閉じて安静にすると②以降のように1本の線が描かれる。この帯域がα波の一部である。α波が④以降のように途切れたら入眠と判定できるのであるが、実際には③から④までのようにα波の断続がしばらく続く。このようなα波の断続期間がまどろみ状態である。

 

番組でも例として出していた、「電車でつり革を持っていて、眠気でカクンッとなったとき・・・」というのは、このまどろみ中の一瞬である。

 

言うなれば、眠りと目覚めが頻繁に繰り返されている時間である。今回のロケでは、このまどろみに入ったことを以て入眠と判定することにした。そして実験中の薄暗いスタジオの中で、被験者がまどろみになって仮入眠したら私は右手を高く挙げ、目覚めたらその手を横に振るという(柔道の審判のような)動作を繰り返してディレクターに伝達した。

 

被験者からパーティションで隠された私の前には、脳波解析PCアプリ「AnalyzerPlus」と被験者の様子を映すモニターの2つが設置され、私は極々小さい声で被験者の脳波を実況し、刻々と変化する状況を詳細にディレクターやカメラマン達のイヤモニに伝えた。

 

これが「AnalyzerPlus」の画面である。
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放送で提示された脳波は赤枠部分だったが、入眠判定するために私が主に注目していたのは黄枠の分布グラフである。実際の分布グラフはこのように上から下に時間が進む(ただし、先に紹介したように90度倒した方が便利なので、変更をメーカーに提案している)。

 

今回の脳波測定実験は、私にも興味深い現象が幾つかあった。バラエティ番組ならではの本気の遊びモードによって獲得された、普段の実験では得難い知見である。

 

その一つを紹介しよう。被験者は団長安田さん。番組で私が解説した「寝ている状態と起きてる状態、この2つの脳波が同時に出てます」である。
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具体的に言うと、深い睡眠を示すδ波と、覚醒を示すα波が同時に継続して出たのだ。放送では紹介されなかったが、その時の分布グラフがこれである。
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分布グラフのおかげで、睡眠判定が随分楽になった。

 

ただし、判読ミスの落とし穴もあるので気をつけなければならない。

誤読の一つは、睡眠の浅いステージから中程度のステージに掛けて観察されることがある睡眠紡錘波(Sleep spindle)との混同である。

 

睡眠紡錘波は、α波とβ波の境界帯域辺りに出る波である。漸増漸減で短い時間観察される場合が多いが、特殊な状況では連続することもある。

下の分布グラフの12Hz~14Hzに現れているのが睡眠紡錘波である。4Hz以下がδ波だが、まだ3Hz未満が表示できない時代の測定のためδ波の大部分は表示できていない。別途、生波形でδ波が強く出ていることを確認している。もちろん被験者はグッスリと眠っていた。05

もう一つ判読ミスを犯してしまい易いのが、以下の分布グラフである。

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これは、目を閉じて安静にしている状態で目玉をキョロキョロと動かした場合である。δ波の帯域に大きな筋電ノイズが被っている。これをδ波とα波が同時に出ていると誤読してはならない。
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ノイズの有無は生波形を観て判断するのだが、ここでは詳細を割愛する。昨年、脳波測定器メーカーからの依頼で脳波測定/判読の初心者向け解説書「睡眠脳波読本 ~始めよう、睡眠脳波研究~」を制作したので、関心がある諸氏は参照されたい。

 

ところで、団長安田さんが上のような特異脳波を出した原因は何なのか、あなたは想像できるだろうか?

 

私は、測定モニターを観ながら小声で実況しているときには分からなかった。δ波とα波の帯域に1本ずつ、まるで轍(わだち)のように描かれる分布グラフを目の当たりにして、睡眠と覚醒の脳波を同時に出す団長凄い、と思っていた。

 

この不思議は、実験が終わって団長からセンサーを外しているときに発せられた団長の言葉で解消した。団長は、この測定の前にあることをしていたのだ。

 

不思議な脳波を出したその原因を番組スタッフに伝えたが、放送では触れられなかったのでここでも言及はしない。団長、さすがである。脳波セミナーで話すネタをまた一つ提供してくれた。

 

最後に登場した野田クリスタルさんは、絶対に眠らなければならないというプレッシャーから、飲めない酒を飲んで土壺にはまった。

 

寝酒が及ぼす快眠阻害作用は、本ブログ前号の「vol.331 寝酒がモンモンタイムを誘発するメカニズム。脳波観察と化学反応で考える。2021.7.14」で述べている。

 

松本人志さんが今回の結果を評した「四者四様」の言葉通り、4名それぞれが興味深いチャレンジと脳波を見せてくれた。

 

前述の「睡眠脳波読本」制作を切っ掛けに昨年開設した「睡眠脳波ラボ」は、昨今の睡眠ブームの波に乗って益々発展する様相である。

 

テレビ番組では今回初めて私の肩書きを「睡眠脳波ラボ 室長」と紹介して頂いた。
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ロケとロケの間が中途半端な時間のときには、自宅に帰らずTBS近くの簡易宿泊所「ファーストキャビン赤坂」に部屋を取り、仮眠や軽食、オリンピック観戦で寛いだ。
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今回もOA映像から13枚の画像をピックアップして、テレビ番組協力実績紹介ページに掲載させて頂いた。

 

感謝

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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