vol.344 日本テレビ「笑って年越し!THE笑晦日」で実験した「目覚めの悪い人でも蚊の飛ぶ音ならすぐに起きる」を解説したインタビューで失敗するに行き着くまでの数々の選択ミス。2024.1.4
ロケの後、「ハーッ」とか「クソー」とか・・・、溜息と感情が何度も繰り返し私の口を衝き、それは放送された大晦日まで続いた。
番組担当者から初めて電話をもらったのが11月30日。昔レギュラー放送していた「伊東家の食卓」が大晦日のスペシャル番組で復活するので、当時紹介した“裏ワザ超快テック”を改めて検証したいとのことだった。
検証する裏ワザ超快テックは、「目覚めの悪い人でも蚊の飛ぶ音ならすぐに起きる」である。
担当者から「和田さんの言葉で解説して欲しい」と言われた。無論問題ない、望むところだ。睡眠脳波をリアルタイムで解説することはいつもやっていることだ。
12月4日にはディレクターから電話をもらい、準備する機材や裏ワザ超快テックの見解等を摺り合わせた。昔のレギュラー放送時に解説された“ピンクノイズの効果”については割愛した方が無難であることも意見が一致した。
電話を切った後に思った。「うん? これは私がこの裏ワザ超快テックを推薦する立場なのか? 私が伊東家の人々の厳しい目に晒され伊東四朗さんに鐘で判定されるのか? 私は脳波測定して深い眠りを実況すれば良いだけではなかったのか?」
この懸念は担当者にメールで伝えつつもチャレンジすることにした。
寝付くため、或いはスッキリと目覚めるためのグッズや方法をこれまでにも脳波測定で検証してきたので、セルシネにはこの分野の知見も沢山ある。目覚める方法に、且つメディア紹介されたケースに絞っても、例えば以下のような経験をしてブログに投稿してきた。
■vol.237『日テレ「所さんの目がテン!」-「朝の科学」「鉄道博物館の科学」。先月は2つのテーマで脳波を測定した。』 2013.5.2
https://selsyne.com/aim/blog/2013.htm#237
■vol.290『仮眠のうまいとり方・・・。テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと。くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」からのご用命で。』 2017.5.30
https://selsyne.com/aim/blog/2017.htm#290
■vol.317『朝スッキリと素早く目覚める絶妙の楽曲を紹介。TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」からオファーを頂いて。』 2019.10.23
https://selsyne.com/aim/blog/2019.htm#317
■vol.324『目覚め方のコツと重要性。毎日放送「林先生の初耳学」~誰でも起きられる目覚まし音を作れる?~で、終夜睡眠脳波を測定して。』 2020.9.11
https://selsyne.com/aim/blog/2020.htm#324
■vol.325『目覚めが悪い芸能人を起こす方法の第二弾。毎日放送「林先生の初耳学」からのオファーで“わさび臭”の目覚まし効果を検証。』 2020.12.18
https://selsyne.com/aim/blog/2020.htm#325
■vol.333『極寒極霧の屋外ロケ。TBS「水曜日のダウンタウン」で検証した脳の逆サプレッション機能。』 2021.12.5
https://selsyne.com/aim/blog/2021.htm#333
そもそも今回の検証は、私の本職である「能力開発/目標達成の支援」という側面からも重要なテーマであり、脳内の情報伝達について様々な場面で発表してきた。脳波測定は、メンタルトレーニングを効果的に実践する方法を研究するための道具として始めたことだ。かれこれ37年になる。
例えば、書籍「宣言 アファーメーション・バイブル ~言霊の生かし方~」では、「意識の図」として紹介している。全ての情報はまず潜在意識で受け取り、そこで取捨選択や減衰/増強が為されたごく一部の情報だけが顕在意識に昇ってくる。
潜在意識のこのような情報コントロールを顕在意識が制御できるようになってくると、人生の運が良くなり楽になるのだ。
「目標達成や人間関係がうまくいかない時の自己改善法を『情報循環モデル』の視点で考えるVer2」
等で発信している。
脳内情報のコントロールは人生成功に欠かせないのだ。
脳における情報の“取捨選択と減衰/増強”機能を視聴者に分かり易く端的に伝えるためのセリフを考えた。何度も何度も練習しつつ文章をブラッシュアップした。それが以下の文章である。
『人が受け取る音は、聴覚を通じてまず無意識の領域に入ります。そして、一部の音だけを意識レベルに上げています。
このような働きを「パーソナル・マインド・フィルター」と呼ぶんですが、眠っている時には当然殆どの音をブロックして、安眠を維持します。
しかし、過去の不快だった体験に結びつく音が入ってきますと、その音を意識レベルに上げて目覚めさせ、回避行動をとらせるんです。』
セミナー等では、“顕在意識”や“潜在意識”と呼ぶが、ここではより分かり易く“意識”や“無意識”とした。ただ、“パーソナル・マインド・フィルター”だけは敢えて入れた。もしも、更にそれっぽい用語を使った説明をリクエストされた場合には、“視床”の働きを簡単に話そうと思っていた。
長さも極力切り詰めたが、それでも約35秒掛かった。後は編集に任せるしかない。
ロケ当日(12月8日)は、ロケ現場に指定された浅草のホテルに1時間前には到着した。撮影クルーの到着を待つ間、ロビーのソファーに座って最後のリハーサルを繰り返した。目標達成の基本であるJR(準備と練習)はこれでバッチリだ!
程なく撮影クルーが到着し、10階の撮影現場に案内された。今にして思えば、ここから私の選択ミスが重なっていったのである。
ディレクターに会うなり、「インタビューは研究所(セルシネ)でやりたい」と言われた。私は、研究所と言っても自宅マンションの一室であること、そしてちょうど大規模修繕工事中であることを伝えて渋った。セルシネのHPに掲載しているその一室(セッションルーム兼執務室)をスマホで開きディレクターに見せた。
ディレクターは一瞬迷う反応を見せたが、それでもセルシネでインタビューしたいと切り返してきた。もう応じるしかない。
家族にメールで事情を伝え、撮影作業の邪魔にならないように応接テーブルを移動しておくように頼んだ。
ホテルでは、実験ロケが始まった。被験者は四千頭身の都築拓紀さん。脳波測定器はBrainPro「FM-939」を用いた。ベッドサイドのテーブルに置かれている黒いマシーンがそれだ。
隣の部屋で、後藤拓実さん、石橋遼大さんと共に睡眠の様子を見守った。脳波解析PCアプリは「AnalyzerPlus」である。その中のヒートマップを中心に睡眠深度を解説した。
測定開始から35分が経った頃、強いδ波がしっかりと継続したので「一番深い眠り」であると私が判定し、石橋さんが音源を持って隣の部屋へ向かった。
結果は、放送された通りである。
実験ロケはとてもうまくいき安堵した。このままホテルでのインタビューなら問題ないのだが、ここから練馬の我が家(セルシネ)に移動してのロケだ。家族にメールで念押しした。
ロケバスにはディレクターとスタッフの2人が乗車した。インタビューはディレクターがカメラマンを兼ねるのだなと思った。よくあることだ。移動中私は、例の解説を改めて繰り返し練習した。
そして、我が家に到着。ロケバスを降りると、なんともう1台のロケバスが後に着けた。カメラマンや音声さんなどの技術部隊も来たのだ。とても全員は部屋に入られない。
慌てて私だけ7階に急いだ。スタッフに「ちょっと待ってて」と声を掛けてから向かえば良いものを・・・。これも行動選択のミスだ。
玄関を入ると廊下に大きな段ボールが出ていた。「なんでこんなもん出しとるん」と家族に文句を言いながら片付けた。マンションが大規模修繕工事中のためベランダの物を部屋に入れていたり、年末の掃除とも重なってゴチャゴチャだったのだ。
セッションルーム(唯一のセルシネ部屋)を確認するとテーブルは移動してくれていたが、散歩用の服が掛かっていたりゴミ箱にゴミが溜まっていたのでそれらを片付けた。玄関に入ってから1,2分が経過しただろうか?
スッキリとインタビューを受けたかったので最後にトイレに入った。膀胱から3分の2程を放尿したときにインターホンが鳴った。家族に「出んでえーでー」と大きな声で伝えながら完放した。
リビングのインターホンにはエントランスのクルーがまだ映っていた。ドアを開けるボタンを押して「降りまーす」と伝えた。なんで? いつものように、乗るエレベータを伝えて来訪を待っていれば良いものを・・・。これも行動選択のミスだ。
どのエレベーターに乗ったら良いのか分からないから、クルーは夜空のコンコースで点々と立っていた。申し訳ない。
7階に上がり、セッションルームに案内した。クルーはすぐに撮影配置を検討しはじめた。椅子を訊かれたが、数日前に背もたれが折れたので机の下にもぐらせていた。
「何か椅子はありませんか?」と訊かれたので、移動していた補助椅子を一つ持ってきた。確かに、主が来客用のソファーに座っていたらおかしい。(視線の高さを合わせるために)ディレクター用の椅子もリクエストされたので、もう一つ補助椅子を持ってきた。
「マスク(備品の箱)はどかして良いですか?」と訊かれ、「はい」と答え、机の上が殺風景だったので、「このメカニカルな脳波測定器を置きましょうか?」と提案した。
2台のカメラ位置が決まり、マイクも付けられた。他のスタッフは廊下で待機している。
そしてSit down. 座ると間髪無くディレクターからインタビューの質問が一言発せられた。
そこでまた私は行動選択のミスを犯した。例のセリフを全部通して喋りだしたのだ。本当は、覚えたセリフを一旦脇に置いて(忘れて)、ディレクターの質問に完全一致の回答を短く返すべきだった。これもミスだ。
喋っているとすぐに息が上がり始めた。水泳選手がレース直後にインタビューを受けている感じだ。否、私の場合は、取組後にインタビューを受けている関取の感じと言うべきか。
一旦ストップして数分の有余をもらい息を整えれば良いものを、息も絶えだえに喋りきった。俳優さんがテレビ番組で時たま言う「監督からストップの声が掛かるまで演技を止めない」の言葉が頭をよぎり、バカなチャレンジ精神にスイッチが入ったのだ。これも選択ミスである。
練習時の35秒が、この時は40秒以上掛かったのではないだろうか? セリフが所々で一瞬出てこなかった。
インタビュー時にはセロトニンかドーパミンの脳内環境で応じたいものだが、恐らくこの時の私の脳内にはノルアドレナリンが、或いはそのノルアドレナリンがアドレナリンにまで変化して放出されていただろう。
喋りきった後に「緊張したー」と言うと、ディレクターも「(緊張しているのが)分かりました。(カンペを)書きましょうか?」と訊かれた。しかしそれはお断りした。カンペを読み出すともっとグダグダになるからだ。ディレクターもそれは分かっていて、私の希望を受け入れてくれた。
ディレクターから改めて幾つかの質問をもらい、それに一つひとつ答えた。しかし、息はまだ整わない。喋った内容もまだ納得してもらっていないようだ。
「脳の“視床”という部位を絡めて説明しましょうか?」と訊ねると、ディレクターは「いいえ、“無意識”という言葉さえ使いたくないと思っています」と。
正味10分弱のインタビューとなっただろうか? 「これリハーサルですよね?」と駄目元で言ってみたが、ディレクターにはあっさりと却下された。「後はつなげて(編集して)なんとかします」と。
撮影が終わった後、カメラマンに「和田さんも緊張するんですか」と言われたから、傍目にも本当にそう見えたのだ。
クルーが帰った直後から、「ハーッ」とか「クソー」の溜息と感情の無意識的な吐露が始まった。
大晦日の放送直前に投稿したメルマガ3誌共通号外「年末のご挨拶」でも次のように書いた。
・・・前略・・・四千頭身(都築拓紀さん、後藤拓実さん、石橋遼大さん)と共演して睡眠脳波を測定したのは良かったのですが、他のシーンではとても緊張したので、「見るなよ、見るなよ」(故・上島竜兵さん風)と言いたい気分です・・・後略・・・
18時39分過ぎ、とうとうこのコーナーが始まった。全国に醜態をさらすのかと覚悟した。
「あれっ、いい感じじゃん」と思った。
さすがプロのカメラマンだ。画角もホワイトバランスもピントもバッチリだ。当たり前と思うかも知れないが、ディレクターやアシスタントが撮影した場合は今一つのことが普通にある。やはり画が違う。
私の喋りは21秒、ナレーションを加えても29秒。トータル5分25秒間に楽しく且つ分かり易くまとめられた“裏ワザ超快テック”の紹介で、CMもまたいだ。
部屋にあった脳波の専門書と私の著書を見つけた制作スタッフがデスクトップPCの横にこんな風に並べてくれていた。
今にして思えば、せっかく大きなPC画面が写っているのだから脳波グラフの動画を再生すれば良かったと思う。後のソファーにも埃よけを掛けたままだった。
写ってはいないが、私の頭上には“濡れタオル”を掛けるための紐を張ったままだった。
加湿器はメンテナンスが重要だし、機種によってはカルキが壁やカーテンに付着してしまう。だから私は古典的な濡れタオル掛けに戻している。それでもちゃんと湿度計の数字が5分毎に上がるのが分かる。
閑話休題
そんなことにも気づかないほど、ロケ当日の私はバタバタだったのだ。
幾重も重ねた行動選択のミスだが、編集の妙でどんでん返しの出来となり、この番組が私の宝物(誇れる実績)の一つになった。
そして、24日も続いた「ハーッ」と「クソー」の溜息と感情は、放送を見た途端に「ホーッ」「良かった」に一変した。
一つ間違いがあったので訂正しておく。
私が斜めからペンで指し示したポイントがずれて見えたようだ。デルタ波の帯域幅を示す青い四角はシータ波まで被っている。実際にはこの半分の幅がδ波の帯域である。
アルファ波の帯域を示す赤い四角は、ベータ波の一部である。実際は画面上の青い四角の右側までずらさなければならない。
ヒートマップの横軸目盛りに周波数の数値が半分見えるので、黙ってやり過ごすわけにはいかない。一般視聴者には問題ないと思うが、脳波を学ぶ人には念のため訂正しておく。
各脳波(定常波)区切りの詳細は、セルシネHPの「ノウハダス」―「4.脳波の種類と特徴」に掲載している。
コーナーの終了直前のワイプには、欲目だが伊東四朗さんも納得されているように見えて嬉しかった。
今月7日の16時14分まで、TVerでこの番組が視聴できるようだ。
また、蚊が飛ぶ音を番組HPからダウンロードできる。是非、お試しあれ!
感謝!
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