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2023年3月13日 (月)

vol.336 エアウィーヴマットレスとウレタンマットレスの快眠効果を脳波測定で比較検証。MBS「日曜日の初耳学」からのオファーを受けて。2023.3.13

今月5日にテレビ番組「日曜日の初耳学」の初耳トレンディで私が脳波測定協力した様子が放送されたので振り返る。

 

今回のトレンドワードは「春の睡眠」で、快眠を得るための様々な方法が紹介された。

 

番組ADから脳波測定の相談メールをもらったのが1月26日。「エアウィーヴマットレス」と「通常のマットレス(ウレタン)」の快眠度を比較、併せて米軍式睡眠法も検証したいとのこと。

 

実験方法などを遣り取りする中で、30日には被験者がオードリーの春日俊彰さんであることが分かった。

 

「うーん、大丈夫かなー」と私の頭をよぎった。春日さんの脳波は2年前に他の番組で測定したことがあり、その際は結局眠ることができないまま朝を迎えた。楽しくも過酷な設定だったので、眠れなくても致し方なかったのではあるが。

 

その番組は以下のブログで紹介している。

 

vol.332 本気チャレンジの遊びが、普段の脳波測定実験では得られない知見を提供してくれた。TBSテレビ「水曜日のダウンタウン」からのオファーを振り返る。2021.9.20 

 

ただ今回は「眠れなかった」では企画失敗となるから、念のためADにこの情報を伝えた。

 

2月9日、麻布十番のハウススタジオでロケは行われた。地下鉄から上がったここから徒歩数分の所だ。
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クルーによって撮影機材がセッティングされ、私も脳波測定機材の配置と測定テストに万全を期した。

 

今回の実験に商品を提供されたメーカーの睡眠健康指導士と広告代理店、ヘッドスパの施術者とマネジャーの皆さんとご挨拶を交わしつつ春日さんの到着を待った。

 

程なくして春日さんが到着し、打ち合わせと準備をしている様子が伝わってくる。

 

そして、私たちが控えていたリビングに春日さんが現れ、導入の撮影が始まった。
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カメラマンやディレクター達の後ろで、私は春日さんの気が散らないように極力気配を消しつつも、ロケの進行と春日さんの言動を把握することに努めた。

 

そしていよいよ脳波測定である。

 

寝室に移動した春日さんの元に私も呼ばれ、今回初めて言葉を交わした。ディレクターから「春日さんは眠れると思いますか」と質問された私は、「春日さんなら眠るんじゃないですかね」とそれまでの自身の発言をひるがえす返答をしてしまった。

 

そして、(オンエアではバッサリ不採用だったが)一頻り前回の過酷ロケについて春日さんと話に花を咲かせた。

 

そもそも「水曜日のダウンタウン」で入眠できなかったのは、先にリンクしたブログで紹介した通りの条件なのだから・・・。今回導入部の春日さんのコメントを聞いていて、リベンジするんじゃないかと思えた。

 

実験の成功を祈りつつ、春日さんに脳波センサーを装着した。
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リビングをモニタールームにして、刻々と送られてくる春日さんの脳波と暗視カメラの映像に対峙した。

 

編集される際のヒントとなるように、入眠やその深度はもちろんのこと、体動や環境変化などのイベントがある度に脳波と照らし合わせながら実況解説していく。
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そして無事に睡眠脳波測定は終了した。

 

睡眠脳波の測定は当然長丁場となるのだが、春日さんの寝つきが良くて、当初予定よりも早く比較データが取れた。

 

エアウィーヴマットレスとウレタンマットレスの快眠効果に明かな差があったので、この結果比較棒グラフを示しながら総評を述べた。
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中央棒グラフ中の手前カラー棒グラフがエアウィーヴ、それに重なった奥グレーの棒グラフがウレタンである。どちらもノンレム睡眠期間の平均ボルテージなのだが、エアウィーヴの方がデルタ(δ)波(紫色)と睡眠紡錘波(オレンジ色)が強いことが分かる。

 

グラフの見方の詳細は弊社「睡眠脳波ラボ」に掲載しているので参照されたい。

 

自信を持って解説したが、番組制作側には満足してもらえないという“あるある”現象にはまってしまった。番組視聴者は必ずしも脳波に関心があるわけではなく、出演者や他のことに興味があったり、ながら的に観ているという前提があるのだろう。私がセミナー受講者に話すのとは違って当然である。

 

とはいえ春日さんが無事入眠し実験結果も肯定的となったので、皆さんとハイタッチをするぐらいの気分で意気揚々と現場を後にした。(中立で評価すべき測定者の態度としては失格かもしれないが)

 

ロケ翌日の10日には改めて脳波測定結果のグラフとExcelにデータを読み込んで解析したグラフ及び測定中のイベント(要点)を時系列に列挙してADにメール添付で送った。

 

例えば、このグラフはノンレム睡眠時のデルタ波に注目した比較である。
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左の比較グラフはデルタ波全域の平均電位で、右はデルタ波の中でも1Hzに絞ったグラフである。1Hzのみの方がより深い睡眠ステージ(熟睡)の指標となる。本当はもっと低い周波数も観たいのだが、本システムでは1Hzが限度である。現在、メーカーにはもっと低い周波数も測定できるモデルの開発を提案している。

 

話を戻そう・・・

 

一目瞭然、エアウィーヴのデルタパワーが強いことが分かる。デルタパワーが強いと、身体の回復力においても有利だと言われている。

 

次に、12日に番組へ提供した経時的分布グラフを紹介しよう。

 

時系列で脳波の変化が俯瞰できるので、入眠潜時(寝落ちするまでに要する時間)や睡眠深度の変化がよく分かる。
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白の半透明にした部分が入眠潜時で、エアウィーヴの最初に強いデルタ波が出ているように見える箇所は体動によるアーチファクト(筋電ノイズ)である。春日さんが寝る態勢を整えている準備中ということだ。

 

モニタールームに戻ってその様子を確認しつつ私も観察態勢を整える動きをしていた。

 

するとその直後、そらしていた視線を戻すと「一瞬アルファ波が出た後に消失している」ことに気づいた。

 

おもわず「わっ、もう眠った・・・」と小声で叫んだ。

 

その後春日さんは二度ほど体動し、5分頃のアルファ波を最後に覚醒アルファ波は出なくなった。

 

一方ウレタンマットレスに寝たときは、覚醒アルファ波が28分頃まで続いているのが分かる。

 

30数分から40分手前までは覚醒アルファ波と睡眠紡錘波(アルファ波とベータ波の境界付近)が共に出ているような、何とも判定者泣かせの脳波が断続した。

 

入眠判定は覚醒アルファ波の消失をもって宣言するが、そのアルファ波の断続が何度も繰り返すことがある。

 

その場合は、「ネタ、オキタ、ネタ、オキタ・・・」と宣言を繰り返すことになる。

 

これを避けるために、アルファ波の消失経過時間を長めにとることもある。

 

今回は実験の性質上、入眠判定条件を厳しく(長めに)した。

 

同じアルファ波でも、覚醒アルファ波から睡眠紡錘波(Sleep spindle)へとシフトしているのが分かるだろうか。

 

睡眠紡錘波は12~14Hz程度とされるが、希に10Hz辺りで観察されることもあるので注意が必要だ。

 

このように、快眠度(質の良い睡眠)を評価する際には、入眠潜時やデルタパワー、いわゆる90分サイクルのパターンや経時的分布グラフによる俯瞰など、定量/定性の両面を駆使する。

 

製品開発の指標として、あるいは商品の訴求力アップを目的として、弊社「脳波測定/脳コン解析サービス」 をご利用頂いている。

 

閑話休題

 

14日にはナレーションの原稿と脳波グラフの添削依頼がADから届いた。スタジオ収録も控えているはずだから早急に添削と補足画像8枚を作成してその日のうちに返信した。

 

これはその中の1枚である。
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寝返りした時にも目覚めにくいというエアウィーヴの特長が見事に観察された。

 

レム睡眠では、夢に反応して体動することを防ぐために、脳からの運動神経をオフにしている。ところがノンレム睡眠ではオンの状態だからむしろ頻繁に寝返りをする。この時に寝具のせいで目覚めてしまうのはもったいないのだ。

 

周波数帯域の区切りが編集者に正しく伝わっているか不安だったので、既にスタジオ収録も終わったであろう3月1日になっても補足資料として以下の画像を提出した。
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そうして3月5日(日)のオンエアに至ったのである。

 

番組では「2分で入眠する」ことを快眠判定基準の一つにしていたが、もちろん普段はこんなに短い入眠潜時を目指す必要はない。こんなに早く寝落ちしたら、「お疲れなのですね」と評するのが普通である。

 

むしろ入眠潜時のアルファモードを大切に生かして欲しい。それを私がレクチャーしたセミナー動画を弊社サイトに掲載している。
https://selsyne.com/aim/audiovisual/contents/0085.mp4#t=603

 

オンエアはされなかったが、今回の実験で嬉しい副産物もあった。

 

それは、ヘッドスパを受けている最中のアルファ波が綺麗に測定できたことだ。春日さんがヘッドスパの施術者に心地よく身をゆだねていることが伺えた。

 

施術者が被験者に触れるとアーチファクトが混入してしまい綺麗な脳波が測れないものだが、その改善方法の可能性を感じさせてくれた。

 

そろそろ本稿を終えるが、執筆中には現在自由脳波研究中のジャズ音楽をBGMに掛けていた。とても良い気分だ。

 

次回はこのフルートジャズ音楽の脳波研究を紹介したいと思っている。

 

感謝!

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2022年9月 1日 (木)

vol.334 マッドサイエンティストの称号が嬉しかった、MBSの番組「日曜日の初耳学」で丸山桂里奈さんの入眠脳波を測定して。

先月28日にMBS(TBS系列)の番組「日曜日の初耳学」で私が脳波測定したシーンが放送されたので振り返る。

今回のテーマは「寝つきが劇的に良くなる『入眠グッズ』の紹介」で、その効果を検証するために元なでしこジャパン丸山桂里奈さんの入眠脳波を測定した。

桂里奈さんが横たわるベッドサイドへ行き脳波センサーを装着していると、桂里奈さんが語り掛けてきた。ここでいつも迷う。応じるとディレクターが「先生は話さないでください」と言ってくる番組もあるからだ。

でも今回は箍(たが)が外れた。本当に桂里奈さんの脳波に興味津々でワクワクしていたからだ。アスリートは尋常で無い集中力脳波を見せることがある。
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急に私の様子が変わったものだから桂里奈さんが「先生急にこわーい」と。自身が寝ているベッドの傍らで男が覆い被さるように豹変したら確かに怖いだろう。まがりなりにも男と女であった。
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このVTRを見ていたスタジオの人達から私に対する異名が飛び交った。
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林先生からは「脳波フェチ」とも。

例えば一晩中脳波観察をしているときも、変化する脳波を私は刻々と実況解説する。特徴的な脳波にワクワクするし、正確に脳波が測定できていることに安堵もする。それらを皆と共有したいからだ。

しかし、確かに一晩中脳波モニターを見ながら実況解説するのは狂気の沙汰かもしれない。

同番組からはこれまでにも睡眠脳波測定のオファーを何度かいただき、同じように実況解説している。それがスタジオでどの程度流されているのかは知らないが、たぶんそんな布石もあったのだろう。

私がマッドになるときは、エーちゃんの楽曲「PURE GOLD」を“マッドラー”と歌っているときぐらいだ。しかし、“マッドサイエンティスト”か・・・、なんか嬉しい。さっそく周囲からも呼ばれてからかわれている。

久しぶりに「PURE GOLD」を聞きながらこの原稿を書いている。

今回検証した快眠グッズは「アイスバッテリー」である。
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これを握って就寝する。

睡眠は軽い冬眠とも言える。温かかった体温が下がる過程でスーッと入眠する。
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今回の脳波測定に用いたモデルはフューテックエレクトロニクス株式会社製のBrainPro「FM-939」、解析ソフトは同モデルのオプション「Analyzer+」である。
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フューテックエレクトロニクス株式会社とのご縁は30年を越えたが、昨年同社の製品企画顧問を拝命した。これから益々ユーザーに喜んでもらえる脳波測定器の実現と普及に尽力していきたい。

今回のロケでも宝物を見つけた。この脳波は、桂里奈さんがアイスバッテリーを握って眠ったときの脳波だ。入眠一歩手前のうとうと状態にすぐなったのだが、私には気になることがあった。なぜだろう、なぜだろうと実況を繰り返した。
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その答えが桂里奈さんのロケ現場でのコメントで分かった。私が何に注目したのか、あなたはこの脳波をみて分かるだろうか?

快眠グッズ「アイスバッテリー」の効果がハッキリと脳波に表れてそれを実況解説できたことに感謝している。
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セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2021年12月 5日 (日)

vol.333 極寒極霧の屋外ロケ。TBS「水曜日のダウンタウン」で検証した脳の逆サプレッション機能。2021.12.5

今年9月に放送されたTBSテレビ「水曜日のダウンタウン」から、再び脳波測定協力のご用命を頂いた。その模様が今月1日に放送されたので振り返る。

ロケ地は茨城の工事現場で、テレビ番組で利用される有名な場所だ。ロケバスで到着した頃には夕焼けが支配し始めたのどかな風景で、この後に体験するノイズと極寒極霧の測定環境を想像することはできなかった。
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今回検証した説は、「めちゃくちゃうるさい所で寝てたら逆に静かになった瞬間目が覚める」である。
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事前の脳波測定テストでは、最上段の生波形に若干のノイズが混じっていた。センサーを短絡しているから、本来なら0Vライン一直線にならなければいけない。
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ただ、この程度なら睡眠判定に大きな支障は無い。

実験台はあかつさんである。この前に同番組の別ロケがあり、もう20時間起きていて軽い寝不足状態だそうである。
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「こんなの無理だよー、寝れないよー」とリアクションするあかつさんを布団に寝かし、頭に脳波センサーを着けた。寒さが徐々に増す中、エキストラによる妨害行動が始まり、もの凄い騒音と振動が現場に響き渡った。そんな中、検証開始である。
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「わっ、ノイズだ!・・・」モニター席に戻った私の口を衝いて出た。脳波測定断念も頭をよぎった。こんな波形では無理である。恐らく、発電機やランマからのノイズだ。

ディレクターもモニターをのぞき込んだ。
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そしてすぐに光明が目に入った。中段右側の分布グラフである。10Hz付近で綺麗に縦線を描き始めていた。これが閉眼安静時にでるα波である。そして、このα波が途切れた瞬間が寝落ちなのである。

生波形に表れた大きなノイズは30Hzを超える周波数だったため、分布グラフには影響しなかったのである。

縦軸は3分間で、途中から全周波数帯域(横軸、1.0Hz~30.0Hz)にノイズが混入しているが、これは被験者あかつさんがリアクション芸を演じているところで、脳波検証の必要がない場面だ。

ただ、とても眠れそうにない騒音と振動で、あかつさんのもんもんタイムが続いた。
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私は脳波測定グラフとあかつさんを映すモニター、そして現場も直接視認しながら実況を続けた。

入眠の瞬間も何度かあったがすぐに目覚める。一つの原因がランマの移動であるように感じたので、同じ場所に留まって妨害することなどを提案した。

そんな中、新たな不安要素が生じた。パソコンが霧でべちょべちょに濡れるのだ。画面は拭けば良いのだが、キーボードや端子もすぐにびっしょり濡れる。電流がショートしたら一巻の終わりである。あかつさんの横にセットしている脳波測定器も心配だったが祈るしかない。

そして30分が経過した頃、眠った!
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“熟睡”は大袈裟だが、確かに寝落ちした。

α波の沈静が十分に続いたのを確認し、“入眠”を宣言した。「寝ました、寝ました、凄い、寝ました」と。
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よくぞこの環境で眠った。

ディレクターが指示出しのためにクルー達の所へ駆け寄った。戻ってきたディレクターが「音声(スタッフ)も寝息が聞こえると言ってる」と教えてくれた。

ここから約30分経過を観察し、いよいよ検証である。

「めちゃくちゃうるさい所で寝てたら逆に静かになった瞬間目が覚める」のか。

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「音を消してから10秒以内に起きれば説立証」のルールだ。
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・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3

起きた!
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もう脳波測定の裏付けは必要ない。起きたのだ。

音が消えたら起きる。こういうことは多くの人が経験しているだろう。

例えば、テレビをつけたまま寝落ちしたとき、家族がテレビを消すと目覚めた、などだ。

そのバラエティ版だったわけである。

最後にディレクターから嬉しい言葉を頂いた。

「脳波は信じてなかったけど、よく分かりました」

嬉しかった。

寒さに震えながら私も感謝の意を伝えた。

寝落ちの瞬間は脳波測定で一目瞭然なのである。

こんなロケだった。感謝!

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2021年9月20日 (月)

vol.332 本気チャレンジの遊びが、普段の脳波測定実験では得られない知見を提供してくれた。TBSテレビ「水曜日のダウンタウン」からのオファーを振り返る。2021.9.20

今月15日、TBSテレビ「水曜日のダウンタウン」で私が脳波測定協力したロケの様子が放送された。おもわず声を出して笑ってしまうほどの楽しい番組だったが、脳波の視点からは分かりづらかったと思うので、さっそく振り返りながら解説したいと思う。

 

ロケは7月31日から8月5日に掛けて赤坂のTBS社屋で実施され、4名のタレントさん(安田大サーカスの団長安田、サンシャイン池崎、オードリーの春日俊彰、マヂカルラブリーの野田クリスタル)の脳波を測定した。
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この件で初めて番組スタッフから電話を頂いたのが、ロケスタートの前々日7月29日。

 

ダウンタウンの冠番組からの問い合わせはこれまでにも何度かあるが、実現したことは無かった。恐らく今回も話しだけになるだろうと思いながら測定環境や受注条件などの摺り合わせをしたのだが、予想に反してすんなりと実施が決定した。

 

企画内容は、「滑車を通して頭上高く吊した“たらい”に結ばれたロープの一端を握って寝たとき、意思が強ければロープを手放さずに眠り続けられる」という説を検証したいというもの。

 

こんな説を誰が言っているのか? 無理に決まっている。入眠判定の指標の一つに筋肉の弛緩があるほどなのだから。

 

4年前に放送されたテレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」でも、スプーンを指に挟んで仮眠するとスッキリと目覚めることができるのかを検証した際に、私は脳波測定で立ち会っている。

 

その模様はブログ「vol.290 『仮眠のうまいとり方・・・。テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと。くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」からのご用命で。』 2017.5.30」で紹介している。

 

入眠と筋弛緩はセットなのである。

 

よって、ロープを握ったままだと入眠できない、入眠するとその瞬間に手が緩んでたらいが落ちる、そうなるだろうと予想してロケに臨んだ。

 

ところが、現場で渡された台本には、「入眠したら検証スタート」と書かれていた。

 

これでは、検証がスタート出来るか出来ないかという検証実験になってしまう。入眠しても実験が続くことはほぼあり得ないのだから。

 

スタッフにその旨を伝えるとすぐにディレクターを呼ばれた。

 

このグラフ(ディレクターにお見せしたグラフは90度回転した縦長のグラフだが)を示しながら、入眠判定の方法をディレクターに伝えた。ディレクターも事前にスタッフから報告は受けていたようだったが・・・。
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縦軸が周波数で脳波の帯域(α波やβ波など)を示し、横軸が時間で左から右に進む。

 

まず、目を閉じて安静にすると②以降のように1本の線が描かれる。この帯域がα波の一部である。α波が④以降のように途切れたら入眠と判定できるのであるが、実際には③から④までのようにα波の断続がしばらく続く。このようなα波の断続期間がまどろみ状態である。

 

番組でも例として出していた、「電車でつり革を持っていて、眠気でカクンッとなったとき・・・」というのは、このまどろみ中の一瞬である。

 

言うなれば、眠りと目覚めが頻繁に繰り返されている時間である。今回のロケでは、このまどろみに入ったことを以て入眠と判定することにした。そして実験中の薄暗いスタジオの中で、被験者がまどろみになって仮入眠したら私は右手を高く挙げ、目覚めたらその手を横に振るという(柔道の審判のような)動作を繰り返してディレクターに伝達した。

 

被験者からパーティションで隠された私の前には、脳波解析PCアプリ「AnalyzerPlus」と被験者の様子を映すモニターの2つが設置され、私は極々小さい声で被験者の脳波を実況し、刻々と変化する状況を詳細にディレクターやカメラマン達のイヤモニに伝えた。

 

これが「AnalyzerPlus」の画面である。
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放送で提示された脳波は赤枠部分だったが、入眠判定するために私が主に注目していたのは黄枠の分布グラフである。実際の分布グラフはこのように上から下に時間が進む(ただし、先に紹介したように90度倒した方が便利なので、変更をメーカーに提案している)。

 

今回の脳波測定実験は、私にも興味深い現象が幾つかあった。バラエティ番組ならではの本気の遊びモードによって獲得された、普段の実験では得難い知見である。

 

その一つを紹介しよう。被験者は団長安田さん。番組で私が解説した「寝ている状態と起きてる状態、この2つの脳波が同時に出てます」である。
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具体的に言うと、深い睡眠を示すδ波と、覚醒を示すα波が同時に継続して出たのだ。放送では紹介されなかったが、その時の分布グラフがこれである。
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分布グラフのおかげで、睡眠判定が随分楽になった。

 

ただし、判読ミスの落とし穴もあるので気をつけなければならない。

誤読の一つは、睡眠の浅いステージから中程度のステージに掛けて観察されることがある睡眠紡錘波(Sleep spindle)との混同である。

 

睡眠紡錘波は、α波とβ波の境界帯域辺りに出る波である。漸増漸減で短い時間観察される場合が多いが、特殊な状況では連続することもある。

下の分布グラフの12Hz~14Hzに現れているのが睡眠紡錘波である。4Hz以下がδ波だが、まだ3Hz未満が表示できない時代の測定のためδ波の大部分は表示できていない。別途、生波形でδ波が強く出ていることを確認している。もちろん被験者はグッスリと眠っていた。05

もう一つ判読ミスを犯してしまい易いのが、以下の分布グラフである。

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これは、目を閉じて安静にしている状態で目玉をキョロキョロと動かした場合である。δ波の帯域に大きな筋電ノイズが被っている。これをδ波とα波が同時に出ていると誤読してはならない。
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ノイズの有無は生波形を観て判断するのだが、ここでは詳細を割愛する。昨年、脳波測定器メーカーからの依頼で脳波測定/判読の初心者向け解説書「睡眠脳波読本 ~始めよう、睡眠脳波研究~」を制作したので、関心がある諸氏は参照されたい。

 

ところで、団長安田さんが上のような特異脳波を出した原因は何なのか、あなたは想像できるだろうか?

 

私は、測定モニターを観ながら小声で実況しているときには分からなかった。δ波とα波の帯域に1本ずつ、まるで轍(わだち)のように描かれる分布グラフを目の当たりにして、睡眠と覚醒の脳波を同時に出す団長凄い、と思っていた。

 

この不思議は、実験が終わって団長からセンサーを外しているときに発せられた団長の言葉で解消した。団長は、この測定の前にあることをしていたのだ。

 

不思議な脳波を出したその原因を番組スタッフに伝えたが、放送では触れられなかったのでここでも言及はしない。団長、さすがである。脳波セミナーで話すネタをまた一つ提供してくれた。

 

最後に登場した野田クリスタルさんは、絶対に眠らなければならないというプレッシャーから、飲めない酒を飲んで土壺にはまった。

 

寝酒が及ぼす快眠阻害作用は、本ブログ前号の「vol.331 寝酒がモンモンタイムを誘発するメカニズム。脳波観察と化学反応で考える。2021.7.14」で述べている。

 

松本人志さんが今回の結果を評した「四者四様」の言葉通り、4名それぞれが興味深いチャレンジと脳波を見せてくれた。

 

前述の「睡眠脳波読本」制作を切っ掛けに昨年開設した「睡眠脳波ラボ」は、昨今の睡眠ブームの波に乗って益々発展する様相である。

 

テレビ番組では今回初めて私の肩書きを「睡眠脳波ラボ 室長」と紹介して頂いた。
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ロケとロケの間が中途半端な時間のときには、自宅に帰らずTBS近くの簡易宿泊所「ファーストキャビン赤坂」に部屋を取り、仮眠や軽食、オリンピック観戦で寛いだ。
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今回もOA映像から13枚の画像をピックアップして、テレビ番組協力実績紹介ページに掲載させて頂いた。

 

感謝

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2020年12月18日 (金)

vol.325 目覚めが悪い芸能人を起こす方法の第二弾。毎日放送「林先生の初耳学」からのオファーで“わさび臭”の目覚まし効果を検証。

前号『目覚め方のコツと重要性。毎日放送「林先生の初耳学」~誰でも起きられる目覚まし音を作れる?~で、終夜睡眠脳波を測定して』にて紹介した番組の第二弾が今月6日に放送されたので振り返る。

 

前回、特殊な警報音でも目覚めなかった松丸亮吾さん。彼を起こすために名乗りを上げたのが滋賀睡眠クリニックの今井眞院長だ。
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起こす手段は“臭い”だ。

 

臭いが人にどのような影響を及ぼすのかを調査した脳波研究は過去にごまんとある。

 

私も例えば、以下のような実績があり枚挙に遑が無い。

 

筑波大学大学院の生命環境科学研究科が実施した研究「大自然の土壌に触れ/嗅ぐことが人の精神活動にどのような効果をもたらすのか」をサポート。

 

(一社)日本メンタルアロマ協会と「香りに対する反応や感情を手掛かりに無意識を探究し、問題解決や自己実現のヒントに気づくメソッドの効果測定」を協同研究。

 

読売テレビ「かんさい情報ネットten」のカラクリコーナーからのオファーで「バラの香りが人に及ぼすリラクゼーション効果」を検証、等々だ。

 

目覚めた直後に臭いを嗅がせて気分を誘導しようとする研究もある。

 

しかし、“目覚めの悪い人を臭いで起こす”という発想はなく、当然そのような脳波測定経験もなかった。
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ところが、今井先生のチームではこれまでに“臭いで起こす研究”を進めてこられて、そのユニークな研究成果で2011年にはイグ・ノーベル賞を受賞されたそうだ。

 

聴覚に障害がある人にも危険発生の警報を届ける手段としても既にホテルなどに導入されているとのこと。なるほど・・・
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今回の実験では、三段階の臭いが用意された。

 

「好きな朝食のにおい」「生ごみの悪臭」そして「わさびの刺激臭」だ。
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松丸さんの好きな朝食は、架空医療番組の事前アンケートで分かっている。
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目覚めさせ方のポイントは“確実性”と“爽快性”の両立である。

 

好きな朝食のにおいが漂う中で目覚められたら、気分爽快で一日のスタートを切ることができるだろう。

 

今回の臭いの最終兵器はわさびの刺激臭である。これには意味がある。

 

単に激辛臭で叩き起こすなら、唐辛子に含まれるカプサイシンがある。ところが、このカプサイシンは親油性であるために舌などの口腔に長く残る。早く洗い流すためには、脂肪分を多く含むヨーグルトなどを食べる必要がある。

 

一方、わさびの辛味成分であるアリルイソチオシアネートは揮発性が高く、すぐに鼻腔をツーンと抜けて辛さ(痛さ)が尾を引かない。よって、部屋を漂うアリルイソチオシアネートさえ無くなれば、或いは自身が部屋を出さえすれば辛さは解決するという大きな利点があるのだ。

 

脳波の分布グラフで、睡眠状態を以下のように判定する。
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前回の振り返りでも述べたように、番組の趣旨として「普段通り充分に寝た朝方に覚醒させる実験」なので、上段の熟睡脳波グラフの一番左のデルタ波帯域の電位はそれほど高まらない(赤くならない)。

 

デルタ波(徐波)の強さで睡眠深度を測るというよりは、REM睡眠だから目覚めにくい(熟睡)という判断である。

 

また、下段の起きている脳波グラフのデルタ波帯域が赤くなっているが、これはデルタ波が強く出ているのではなくて、目覚めて表情筋が緊張したために同帯域に生じた筋電ノイズである。

 

今回の松丸さんは、ベッドで30分程読書した後にすんなり入眠した。

 

次のOA画像の脳波は、睡眠のいわゆる90分サイクルを何回か繰り返した後のものだ。デルタ波モードでありつつ、アルファ波とベータ波の境界付近にも電位が立っている。睡眠紡錘波(Sleep spindle)と呼ばれる脳波で、外的刺激(騒音など)をキャンセリングして睡眠を維持しようとするときにも観察される。

 

この帯域の脳波が目覚めているときに出ると、いわゆるゾーン状態で物事に集中していることを示すものだ。
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睡眠実験やテレビ番組のロケでは、被験者が緊張して綺麗な睡眠脳波が取れないこともある。例えば、デルタ波の電位が低かったり、ベータ波がうっすらとチラチラ出続けるなどだ。

 

前回のプロレスラー天山広吉さんは、深酒で一度は気絶するように眠ったものの、それ以降は眠れずに朝までモンモンとしていた。

 

そして今回のもう一人の被験者であったりんごちゃんは、ベッドに就くことすらできなかった。
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松丸さんの睡眠サイクル1回目の徐波睡眠がこれである。素晴らしい熟睡だ。この睡眠脳波グラフにも惚れ惚れした。
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さて、松丸亮吾さんを今回は目覚めさせることができたのか? 

 

OA動画が番組の公式YouTubeチャンネルに「芸能界イチ起きられない男・松丸亮吾をわさびで叩き起こす!!」のタイトルで公開されている。ただし、タレントさん達のスタジオトークやワイプ抜きが無いバージョンだ。

 

前回はアパホテル〈六本木SIX〉、今回はアパホテル〈新宿 歌舞伎町タワー〉の1フロアを借り切ってのロケだった。心遣いが行き届いたアパホテルいいよねー。準備万端整ってからロケ開始の合間に、元谷芙美子社長の著書も拝読した。
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これまでの「テレビ番組協力実績」紹介ページ

 

感謝。

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2020年9月11日 (金)

vol.324 目覚め方のコツと重要性。毎日放送「林先生の初耳学」~誰でも起きられる目覚まし音を作れる?~で、終夜睡眠脳波を測定して。

先月30日、毎日放送(TBS系列)「林先生の初耳学」で私が終夜睡眠脳波を測定した模様が放送されたのでいつものように振り返る。

 

番組ADから初めて電話を頂いたのが8月10日。「緊急地震速報のアラーム音を作ったサウンドデザイナーが新たに開発した目覚まし音なら、どんなに寝起きが苦手な人でも起きることができるのかを調べたい」とのこと。

 

翌11日10時、Zoomを利用してディレクターとサウンドデザイナー、AD、私の4人でリモートミーティングをした。

 

サウンドデザイナー小久保隆氏が今回開発された目覚まし音は、脳を段階的に無理なく目覚めさせるために4ステップの音を設定しているとのこと。

 

第一段階は右脳に寄り添う自然音、第二段階は優しい言葉で母に起こされるようなメッセージで左脳を、第三段階は両脳を刺激するミックス音、そして第四段階がスウィープ音だそうだ。

 

もちろん、大音量で叩き起こすなら簡単だ。しかしそれでは、スッキリと気持ちよく目覚めさせたとは言えない。「スッキリと気持ちいい」感がなければ、“覚醒の拒否反応”が起こって二度寝したくなる。

 

脳波研究家としての立場から予見を求められた際、「同質の原理」の重要性を発言する中で閃いたのが、この“覚醒の拒否反応”というワードである。

 

1時間半ほどのリモートミーティングで、この閃きが一番嬉しかった。オンエアでも、「いきなりベルの音が鳴ると目覚めの拒否反応が出て二度寝の原因にもなる」とテロップとナレーションで紹介された。

 

日頃、人生成功や自己実現をサポートする中で一部のクライアントに感じていた“成功の拒否反応”が閃きに影響したと思われる。

 

第四段階のスウィープ音のスウィープとは、「一掃する(sweep)」という意味だ。しゃくり上げるような人工音が何度も何度も繰り返される。そしてそのテンポが途中で速くなる。

 

これらの目覚まし効果については、昨年10月にオンエアされたTBSラジオでも私が解説している。ブログ『朝スッキリと素早く目覚める絶妙の楽曲を紹介。TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」からオファーを頂いて。』

 

さらに、寝ているときに脳がノイズキャンセリングする機能とその脳波についても、弊社ウェブサイト「睡眠脳波の測定/解析例」に掲載している脳波の分布グラフを案内しながら言及した。波形の名は睡眠紡錘波(Sleep Spindle Wave)で、目覚めているときに出れば、アスリートなどがいわゆるゾーンに入った変性意識状態で、驚異的な集中力でハイパフォーマンスを発揮する。

 

 

今回のロケ中にも被験者から幾度となく睡眠紡錘波が観察されその都度解説したが、テーマから逸れるので番組内容には含めないとディレクターから言われた。限られたオンエア時間だから仕方ない。

 

睡眠紡錘波は睡眠の中程度の深さで観察される脳波で、廊下を歩くスタッフの足音などに反応して生じた。

 

今回のロケで用いた脳波解析PCソフトは「アナライザープラス」である。画面中段右の分布グラフが睡眠深度の観察に威力を発揮する。素人が観ても分かり易いだろう。
01analyzerpluszengamen

 

 

睡眠ステージの評価基準(分布グラフの見方)画像を、以下URLに掲載している。
https://selsyne.com/aim/nowhadas/SleepEEG/bunpugraph-kaisetu2018.1.11-3.jpg

 

オンエアではこの分布グラフだけに注目して解説したが、私がロケ現場で評価する際には上段の生波形が重要な指標となる。睡眠深度毎の特徴的な波形が時折あるし、何よりノイズ混入(特に被験者の表情筋から生じるアーチファクト)の判別に必要なのである。上の参考画像では綺麗なα波が表示されている。

 

また、生波形エリアの下の全時間折れ線グラフも有用である。アナライザープラスは10時間の連続測定が可能であるが、今回は1時間毎に測定データを保存しながら進めた。万が一測定データを消失してしまうアクシデントの損失を小さくするための策である。

 

全時間折れ線グラフの時間経過は左から右に進む。参考画像では、測定を始めてから5分程は動いていたために、折れ線グラフのδ波(ピンク)がノイズの影響で強く(高く)表示されている。そのδ波は程なく沈静化し、20分辺りから再びパワーを増してきている。すなわち睡眠深度が深くなっていることを示している。

 

δ波の減増(睡眠深度の浅深)は、いわゆる90分サイクルで繰り返される。δ波が生波形の7割以上を占めれば、最も深い睡眠ステージだと判定して良い。
02suiminsindodiagram

 

 

小久保氏が開発された目覚まし音を鳴らすのは、被験者が最も深い睡眠になったときだ。しかし、最も深い睡眠は最初のノンレムで現れるのが普通である。今回のロケでは、被験者が十分に寝て、その上で朝方の睡眠が深いときに実験したいとの番組制作側からの要望だった。日常の寝起きを再現したいのだから当然といえば当然である。

 

レム睡眠のときの方が起こされにくい場合もあるが、これは被験者が夢に夢中だからだと私は考えている。目覚まし刺激が夢に同化して渾然一体となるため、そのまま夢を見続けるのだ。そしてもう一つ、ノンレム睡眠時よりも筋肉が弛緩していて身体が殆ど動かない状態であることも大きな要因であろう。これらの理由で目覚めが遅れるが、脳波の睡眠ステージとしては浅いと私は評価する。

 

ロケは、アパホテル〈六本木SIX〉のワンフロアーを借り切って行われた。
03apahotel

 

今回被験者となったタレントは3名。

 

番組で登場した順に紹介すると、一人目はギャル界の寝坊女王ことゆきぽよさん。番組で紹介された通りすぐに強いαモードとなり、それが4分程続いた後にα波がぷつりと途切れた。この瞬間が入眠である。

07nyuumin 

そして5時間の睡眠後、δモードの深い睡眠であることを確認していよいよ目覚まし実験である。

 

結果は、自然音に右脳が反応して弱いαモードが数分間続いた後に目覚めた。

 

ディレクターが部屋に入り本人にインタビューすると、ゆきぽよさんは時計を確認して「えっ、最悪 最低 5時53分じゃん!」と早く起こされた不満を口にした。しかしその後すぐに、「えっ、でも違う。いつも起きる5時と全然違う。すごい、初めてかも、目覚まし一発で起きたの」と実感を述べた。

 

次の被験者は、寝たら起きないプロレスラーの天山広吉さんである。放送された通り、リモート飲み会で酒をたらふく飲んでベッドに就いた。いつも私が言うことだが、適量を超えた飲酒後の睡眠は気絶(少々大袈裟な表現)である。

 

α波の消失と出現を短いスパンで繰り返し、一番長く20分程ノンレムが続いた後に覚醒してからはもう入眠することが無かった。そこから約6時間半のモンモンタイムはさぞかし辛かっただろう。

 

一週間後に追加ロケした際には寝酒を控え、入眠と覚醒実験も無事成功したのはオンエアの通りである。

 

最後の被験者は、謎解き王の松丸亮吾さん。子供の頃からの寝坊癖で、初めてのテレビ出演の際にも1時間遅刻して番組スタッフを待たせたのだそうだ。

 

松丸さんに脳波センサーを装着してからモニタールームに戻り、さっそく脳波測定を開始した。23時37分だ。するといきなりα波のような生波形が現れた。松丸さんを映すモニターを見ると太極拳のような体操をしていた。十数秒のことだったろうか?

 

分布グラフに目をやると、14.5Hz(画像赤丸の中心点)が一瞬強く出ていた。α波とβ波の境界付近のβ波だ。数十秒後、さらにα波寄りの波が出た。この時にはもう体操は終わっていたと思う。分布グラフでは赤丸のすぐ下のか所だ。目を開けて動き回っている状態でこのような脳波を捉えるのは珍しい。かなり集中力が高いとみた。
04matumaru145hz

 

この集中力が後に衝撃の実験結果をもたらすことになる。

 

松丸さんは部屋にリモートゲーム環境を構築し、友達と対戦ゲームを始めた。やっと就寝したのは4時22分だった。脳波測定を開始するとノイズが大きい。長時間ゲームに興じたために、眼筋が微かに痙攣しているようだった。これはちょっとよろしくないが、しばらくするとノイズも収まってきた。

 

そして8時、目覚まし実験のスタートだ。

 

目覚まし音の第一、第二と進むにつれてこのような脳波が出現し、睡眠ステージが中程度にまで浅くなった。このスピンドル波が、睡眠が継続するか覚醒するかの分岐点だ。さー、スピンドル波の盾は目覚まし音にはじき飛ばされるか、それとも防ぎきるのか?
05matumarueeg

 

そして第三段階、スピンドル波は消えて深い睡眠に戻った。第四段階のスウィープ音を鳴らしても脳波は深い睡眠状態であることを示し続けた。

 

睡眠も集中だ。松丸さんは凄まじい集中力を持っていた。

 

 

今回のオンエアでは採用されなかったが、私がインタビューに答えた内容を以下に記しておく。インタビューを横で聞いていたサウンドデザイナー小久保氏も賛同してくださった。

 

「オレキシンの分泌によって私達は目覚めます。その際、オレキシン+セロトニンで安らぎモードの覚醒となり、オレキシン+ドーパミンで熱中モードの覚醒、オレキシン+ノルアドレナリンでは闘争モードの覚醒になります。同質の原理を使って目的の目覚め方を実現する小久保先生のお考えは理に適っているし、とても重要なことなんです。」

 

目覚め方、そして目覚めたときの精神状態は重要である。ただの大音量アラームで起きてしまっては、αモードをすっ飛ばしてしまってもったいなさ過ぎる。起床時にαモードを数分間維持する時間を脳のゴールデンタイムと言って、その重要性はこのブログでも再三発信してきている。

 

8月に嬉しいことがあった。NTTレゾナント社が運営する「教えて!goo」のライターから取材を受けて私が回答した「脳波研究家に聞いた!本を読んで眠くなるとき、ならないときの違いとは?」の記事が、同サイトの人気記事ランキングの「ライフ」カテゴリーで1位、総合で2位を獲得した。先ほど紹介した神経伝達物質の違いによる精神状態の違いにも触れているので紹介する。掲載URLは以下の通りである。https://oshiete.goo.ne.jp/watch/entry/2aaf05344064f2583a49432924888c6b/


 

閑話休題

 

今回の番組を局がYouTubeの公式チャンネルにタイトル「誰でも気持ちよく起きられる!?最強目覚ましアラームを作ってみた!」でアップされている。ただし、スタジオで観ているタレントさん達のワイプ抜きは無いバージョンだ。
https://youtu.be/SAaymzuKK4o

 

また、今回の放送で利用された目覚まし音が各種音楽配信サービスからダウンロード(有料)できる。iTunesサイトではダウンロード数がベスト10入りしたそうだ。ダウンロード方法などの詳しい情報は、番組HPに掲載されている。

 

撤収作業のためにモニター室に戻ると、小久保氏と私をねぎらうメッセージが置いてあった。松丸さんのマネジャーからだ。

 

控え室も用意していただき、快適で楽しい「脳波測定/脳コン解析サービス」の実施となった。
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感謝。

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2020年8月30日 (日)

睡眠脳波測定で証明したマッサージの快眠効果、デルタ波の出現期とパワーの違い。テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」にて。

今月13日(木)にテレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」で、私が脳波測定したシーンが放送されたので、いつものように振り返る。

 

今回の件で初めて連絡を頂いたのが7月20日、AP(アシスタント・プロデューサー)からのメールだった。

 

同番組からのオファーは4年前の2016年からこれまでに4回頂いた。初めの2回は、「玉ネギ臭の快眠効果」、「スプーンを用いたうまい仮眠のとり方」で、いずれも脳波測定をした。

 

後の2回は、「暗算しながら正座すると足が痺れない」、「『赤いきつね』と言いながら『緑のたぬき』とスマホに打つのは難しい」で、そうなる理由を私なりに脳機能の見知からコメントした。

 

5回目となる今回のテーマは「快眠に誘うマッサージの効果」を睡眠脳波測定で検証するというもの。久しぶりの脳波測定だ。番組も200回記念だそうだ。

 

脳波測定以外で呼んでもらったときは仕事の場が広がったようで嬉しかったが、今回は脳波測定でやはり嬉しかった。なんでも嬉しいのだ。声を掛けてもらえるということは・・・

 

撮影は8月3日(月)、多摩川近くのハウススタジオで行われた。
2020813hanatakablog1

 

今回は、測定目的と測定環境に鑑みFzという部位に電極を置いた。電極配置の「国際脳波学会が提唱する10-20法」を弊社ウェブサイトに掲載している。

 

被験者の頭に白いガーゼが見える部位がFzだ。
2020813hanatakablog2

 

睡眠ステージ(深度)は、このOA画面左側の分布グラフで観察する。上に見える生波形もノイズ混入を見極めるために重要だ。

 

分布グラフは、縦軸が上から下へ時間の経過で、リアルタイムから過去3分までが表示されて1秒毎に進んでいく。横軸は1Hzから30Hzまでを表示している。小さくて見えにくいが、横軸には周波数が1、5、10、15、20、25、30と書かれている。

 

快眠マッサージを受けた被験者は程なくして中程度の睡眠(ステージ2~3程度)に入った。しかし、リアルタイム(最下)から数十秒前にデルタ波は途切れ、10Hz付近のアルファ波モードに変わった。これは、一瞬目覚めたことを示している。

 

廊下を挟んだ向かいの部屋に置いた「脳波解析画面」と「被験者を映すモニター」を観察しながら、刻々と変化する睡眠の様子を私は実況した。
2020813hanatakablog3

 

睡眠深度が深まったことを私がファルセットのような声で告げると、ディレクターとカメラマンが色めき立つ。私達のざわつきが、離れた部屋で眠る被験者の脳波に影響する。その瞬間を捉えたのが上の分布グラフだ。

 

ざわつきによって覚醒することもあれば、脳のノイズキャンセリング機能によって眠り続けることもある。この反応は、アルファ波とベータ波の境界あたりに出現する脳波で判別できる。
2020813hanatakablog4

 

就寝前の快眠マッサージありなしで、脳波はこの様な違いを見せた。睡眠マッサージありの方が断然デルタパワーが強い。すなわち、睡眠が深く熟睡したと言える。

 

ディレクターが「15分ものですよ」とつぶやいた。睡眠脳波測定中にそれだけ沢山の興味深いイベントがあったので、15分コーナーに拡大しても良い程という意味だ。嬉しかった。

 

テレビ番組に協力した際には内容に不本意な部分もありがちだが、今回はロケ後の編集作業中にもAPから、或いはAPを通じて何度かテロップやナレーションの確認を依頼された。おかげで「あちゃ~」という部分も無く、静かな達成感を得ることができた。 

 

また、私が提出した図「睡眠深度ダイヤグラム」を元に、番組で睡眠の90分サイクルが動的かつ綺麗に紹介された。
2020813hanatakablog5

 

これを機に、同図をリニューアルして弊社ウェブサイトの「睡眠脳波ラボ」に専用のページを新設して掲載した。
Sleepdiagram2020812600

 

個人個人で、そして体調によっても大きく変化する睡眠浅深周期を観察することで、睡眠の質がよく分かる。新たな知見も得られてきているので、今後はこのページも充実させたいと思っている。

 

いつものように「テレビ番組協力実績」紹介ページに、OA画像を13枚掲載させて頂いた。感謝!

 

 

今晩(30日22時)、毎日放送(TBS系列)の「林先生の初耳学!」で、同じく私が睡眠脳波を測定し解説したシーンがOAされる予定だ。無事放送されたら本ブログで振り返りたいと思っている。

 

 

セルシネ・エイム研究所 和田知浩

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2019年10月23日 (水)

朝スッキリと素早く目覚める絶妙の楽曲を紹介。TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」からオファーを頂いて。

今月6日(日)のTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」で私が提供したメッセージが紹介されたので振り返りたい。

番組の放送作家からお電話を頂いたのが、オンエア前々日の金曜夕方だった。

テーマは「朝一秒でも早くスッキリ目覚める方法」。

先に発表された滋賀大学大平雅子准教授の研究チームにより提唱(研究途上)された方法を軸に、その他の方法も紹介したいとのこと。

メッセージの提供方法と謝礼金を提示され、このオファーを受けることにした。

電話を切った後、さっそく大平雅子准教授の発表内容を調べてみた。

ゼミ6期生朝倉大晟氏の卒論の一部をまとめたもののようだ。

被験者は13名の小学生で、電子アラーム音を鳴らした場合は平均310秒(5分10秒)、ところが“ある方法”では平均29秒(おおよそ10分の1)で目覚めたそうだ。更に、起床直後に簡単な問題を解かせると、“ある方法”ではミスが少なく覚醒度も格段に良かったという。

ある方法とは、「寝ている子の名前を呼んで起こす」である。

被験者のお母さんが呼び起こす声を事前に録音しておき用いたそうだ。

同放送作家は既に私が投稿している「スッキリ目覚める方法」を読んで頂いているようだったので、その方法を押さえて、更に理論的背景やその他の方法をこの様にまとめて提出した。

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「スッキリ目覚める」とは、「覚醒直後の脳の“ゴールデンタイム”」の数分間と「覚醒後の脳の“フレッシュタイム”」の約 60 分間の質で評価される。

脳のゴールデンタイムでは、脳波がα波モード(α波優勢。他の脳波よりもα波が一番強く出ている状態)になっている。

前日の脳活動によって生じた脳内のゴミ(アミロイドβ)が睡眠時に一掃され、脳はリフレッシュする。

この貴重なスッキリタイムをせかせかと時間に追われ、身支度や通勤/通学をして、多くの人達は折角の脳内環境を台無しにしている。

本ブログに関連記事「人生マネジメント&ビルドの効果を飛躍的に高める睡眠前後の脳のゴールデンタイムとフレッシュタイムの生かし方。」 を投稿している。

このことを踏まえて、さて本題である。

歌には、リズムによって右脳を、言葉によって左脳を刺激する効果がある。

よって、適切なリズムと言葉を与えれば、全脳的に早くスッキリ目覚めることができる。

お薦めの楽曲が「あの鐘を鳴らすのはあなた」(作詞 阿久悠、作曲 森田公一、唄 和田アキ子)である。

リズムと歌詞が目覚めに丁度いい。

リズムは4拍子でテンポは90bpm(beats per minute.1分間あたりの拍数)で始まる。それがすぐに104bpmへと変調する。この変調が目覚めに丁度いい。

スッキリと目覚めるには歌詞も重要である。この楽曲には「アファーメーション」(肯定的自己宣言)の要素が沢山織り込まれている。

このテンポと歌詞が絶妙である。“同質の原理”で無理なくたぐり寄せるようにスッキリと短時間で覚醒させてくれる。

話が脱線するが、“肯定的高揚感”を高める大ヒット曲は他にもある。6年前にリリースされた映画「アナと雪の女王」の主題歌「Let It Go」である。

当時、TBS「あさチャン」から脳波測定のご用命を頂いた際に、その効果を実証している。ピークパフォーマンスを発揮できるファストα波が増強するのだ。

当時、本ブログに「“アナと雪の女王”の主題歌『Let It Go ~ありのままで~』を聴いたときの“肯定的高揚度”を脳波測定で算出。TBS「あさチャン」からのオファーにて。」 を投稿している。

ただし、目覚めのための変調の妙は「あの鐘を鳴らすのはあなた」に軍配が上がる。

閑話休題

人は、(上に紹介したゴールデンタイムの他にも)睡眠中に何度かうっすらと目覚める時間帯がある。タイミング良くこの時に「あの鐘を鳴らすのはあなた」が鳴り始めたら、その時をゴールデンタイムにすることができる。

起床したい時刻に少し余裕を持ってプレーヤーでリピート再生すると良いだろう。そしてもう一つのポイントは、音量は大きくしないということだ。

是非お試しあれ!


そして、脳のゴールデンタイムには、「微笑み法」も併せて実践すると良い。微笑み法とアファーメーションについては、書籍「宣言 アファーメーション・バイブル ~言霊の生かし方~」に詳しく書いている。

アファーメーションのスクリプトは「私は」を付けるはずなのに、「あの鐘を鳴らすのはあなた」は「あなた」と言っているじゃないか、というツッコミが不毛であることも分かるだろう。

なお、「あの鐘を鳴らすのはあなた」には様々なバーションがあるので、試すなら1972年に発売されたオリジナルが良いということも付け加えておく。


オンエアされたこのラジオ番組はこちらでお聞き頂ける。

感謝。


セルシネ・エイム研究所 和田知浩
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2019年7月 4日 (木)

能力開発トレーナーとして恥じ入った・・・、SHELLYさんの凄い能力。テレビ朝日の「ハナタカ!優越館」からオファーを頂いて。

「・・・『あかいきつね』と言いながら『みどりのたぬき』とスマホに打ち込むことは難しい。また、その理由をコメントして頂けませんか?」

テレビ朝日「日本人の3割しか知らないこと くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館」スタッフからのメールだった。

難しいもなにも、そんなこと出来ないだろう・・・、と思った。

私はスマホの入力には時間が掛かるが、PCのキーボードならタッチタイピングが出来る。入力中の文節後半で、他に意識を向けながらでも問題なく入力できる。

PCで試してみた。

『あかいきつね』と言いながらキーボードに「みど;■`@!$”・・・」無理だ。

二十数年前に私が指導していた能力開発セミナーで、以下のようなデュアルタスクの課題を余興でやっていたことがある。

課題1.左腕を上下させながら、同じテンポで右腕は三角を描く。

両腕を上げた状態から始めれば、カウント6で再び両腕が上で揃うはずだ。

課題2.左手はパー(全指を伸ばした状態)、右手は親指だけ折った状態から、両手一緒に指を折りながら10まで数える。

カウント10で、最初の状態になるはずだ。

初めての人は出来なくても、少し練習すると誰でも出来るようになる。プチ能力開発の達成感が味わえるのだ。

しかし、今回ご相談頂いた課題は・・・

そういうことは出来ない、という理由を用意して撮影に臨んだ。

撮影クルーを弊社に迎え、撮影の準備が進んでいた時の会話に驚いた。

ディレクター曰く、「SHELLYさんだけ出来たんですよねー。2回やっても・・・」

しぇ、SHELLYさん凄ーい・・・。ビックリした。本当に驚いた。

いつもなら、例えば脳波測定の結果を私が解説するVTRがスタジオで流されて、タレントの皆さんがそれを見るというステップだ。

ところが今回は、既に結果が出ていて、それの事後解説という訳だ。だから、私が解説しているシーンに、それをスタジオで見るワイプのタレントさんはいない。

6月13日に放送された番組の画像をお借りして振り返る。

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「これが一発で出来るということは、脳の中の情報処理をするスペースが広くて、複数の作業を同時並行する能力に優れていると思います」

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「赤いきつね」と言いながら「みどりのたぬき」と入力できるか。ペルセペスさんからのハナタカ投稿だ。

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前振りの後、スタジオの皆さんが挑戦していくがことごとく失敗。

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途中、ボケとツッコミがありながら・・・

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そんな中、SHELLYさんだけが出来た!

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「この場合、喋ることと文字を打つという別のことを、どちらも1つの脳から指示を出そうとしています」

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「脳の作業記憶は、2つ以上の処理を同時におこなうことは苦手なんですが、中には信号をうまく切り替えて、高速で複数の処理を出来る人もいます」

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「SHELLYさんのような複数の言語を処理できるような方は、そういう能力が発達したのではないかと考えられます」

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「何歳になってからでも脳の処理能力は鍛えることが出来るので、ぜひ日常的にやってみて欲しいです」

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脳の働きは何歳になってからでも、(粘土を練り直すように)再構築することが出来る。この性質を“脳の可塑性”という。

それにしても、SHELLYさんの能力には驚いた。

この実験結果を聞いたとき、すぐに「SHELLYさんがバイリンガルだからか」と思い当たった。

もしかすると3カ国語以上話せるマルチリンガルかもしれないので、ディレクターと相談して、「複数の言語を処理できる」という表現にした。

私は昨今の“早期英語学習熱”には首をかしげる一人だが、SHELLYさんの脳内で“能力の波及効果”が生じていることは確かである。すなわち、ある能力が活性化すると、関連する周辺の能力も引っ張られるように顕在化する現象だ。

ある能力が活性化すると、その働きを担う脳の領野が実際に広くなる。広くなった領野で余裕を持って関連能力を発揮できるのだ。

キーワードは、「デュアル(マルチ)タスク」と「ワーキングメモリー」である。

ワーキングメモリーについては、セルシネのYouTubeチャンネルに掲載した動画「情報循環モデルの中の理性的自我の役割を知る」でも触れているので参考まで。

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SHELLYさんの脳を覗いてみたくなった。

SHELLYさんのことはテレビでお見かけするぐらいしか知らないので、本当はもっと別の理由もあるかもしれない。

それにしても、このお話を頂いたときに「そんなことは出来ないだろう」と性急に思い込んでしまった自分が恥ずかしい。能力開発トレーナー失格である。

改めて能力開発の大きな可能性に気づかせてくれた番組とSHELLYさんに感謝。

セルシネの「テレビ番組協力実績」紹介ページ


セルシネ・エイム研究所 和田知浩
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2019年6月29日 (土)

NHKBSプレミアム「偉人たちの健康診断」からのオファーで、新選組・土方歳三も実践した秘伝の呼吸法を脳波測定で検証。

NHKBSプレミアム「偉人たちの健康診断」~新選組・土方歳三“お掃除男子”美肌の秘密~で、私が脳波測定で協力したシーンが放送されたので振り返りたいと思う。

OA画像を、いつものように弊社「テレビ番組協力実績」紹介ページにも掲載させて頂いた。

番組から脳波測定のオファーを頂いた目的は、土方歳三が入門した日野宿本陣 天然理心流道場に伝わる秘伝の呼吸法を検証することだった。

ロケは4月20日(土)に日野市東部会館の大ホールで行われた。

ロケ現場近くに歳三の生家「土方歳三資料館」があることを知り寄ってみたが、残念ながら当日は閉館していた。

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5月30日に放送された内容から、歳三の人となりをピックアップしてみよう。

1835(天保6)年、現在の東京・日野市に生誕。農民の出で、「新選組の鬼の副長」と呼ばれた。享年35歳。

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本郷和人氏(東京大学史料編纂所 教授)曰く、「京都を舞台に一所懸命治安維持に務めた。だけど、時勢が見方をしてくれなかった。幕府が滅んでいくとき、幕府に準じて最後まで戦った、武士の中の武士という感じがするわけですが、実は彼は農民の子なんです」

日野宿本陣天然理心流道場に入門した歳三は、通常7年掛かると言われる天然理心流中極位目録を1年7ヶ月で修得したそうだ。

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番組は、新選組隊士 井上源三郎の子孫である井上雅雄氏が会長を務める天然理心流日野道場を取材し、歳三が美肌であった理由を探った。

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これが柔術を取り入れた天然理心流の極めて特徴的な技で、体幹と下半身の筋肉が鍛えられるのだそうだ。

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歳三は通常の4倍以上のスピードで天然理心流中極位目録を修得したのだから、勝れた筋力を体幹と下半身に有していたであろう、そしてこのことが美肌の理由である可能性だと番組は展開した。

錦織秀氏(ポーラ化成工業 研究員)によると、日本人女性100人を調査した結果、体幹と下半身の筋肉量(80%の筋肉がある)が多い人ほど、顔のシミが少ないという相関関係があったとのこと。

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同氏によると、筋肉で生成されるマイオネクチン(myonectin)というホルモンが、シミの原因であるメラニン色素の生成を抑える働きがあるのだそうだ。(2018年にポーラ化成工業フロンティアリサーチセンターが発表)

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さらに、美肌を保つ天然理心流秘伝の呼吸法が紹介された。今回初めてテレビで紹介されるという指南書「剣法名談録」である。

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その呼吸法(意気込みの術)とは次の通りである。

「両ひざを開き、腰を上げ、ヘソを上に向け、腹にゆっくり空気をためて、肛門を引きしめ、少しずつ息を出し入れする」

前出の井上氏によると、「この呼吸法を取り入れると、無になって、感情を抑えて、実力を出すことができる」のだそうだ。

 

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貝谷久宣氏(京都府立医科大学 客員教授)によると、「呼吸をゆっくりすることによって怒りとか激しい陰性感情が抑えられる」とのこと。

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そして、私が脳波測定した様子が紹介された。

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解析の結果、秘伝の呼吸法前後で一貫してミッドα波(α2)が優勢で、θ波の出現量は前に比べて後が増したことが分かった。

ミッドα波が一貫して優勢であることは「落ち着いた意識集中」状態であると言える。また、θ波が増えたことは、ヨーガの行者や禅僧が空観を得たような心的状態で、いわゆる「覚醒θ波」である。

全周波的に電位は然程高くなかったので、この脳波バランスで電位が増してくると達人級となるだろう。

番組が紹介した脳波グラフがこれだ。綺麗なグラフだ。が、しかし、間髪入れずに私の頭の中で「?」が2つ駆け巡った。弊社「セルシネ・エイム研究所」のクレジットが標記されているのだが・・・

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本稿では別の視点から脳波解析の結果を有りの儘に紹介しておきたいと思う。

秘伝の呼吸法を実施した前後の左脳(Fp1)と右脳(Fp2)の脳波を測定し、β波とθ波をピックアップして平均電位、分布率、優勢率の変化量を示したものである。

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全てにおいて、β波が減り(マイナスになり)、θ波が増えている。分布率と優勢率の変化量は「ポイント」である。

β波は「せかせか感」の指標である。

程なく脳波のコーナーは終わり、番組は呼吸法の更なる効用「感情を抑えることが美肌につながる」との紹介へ進んだ。

番組では「感情を抑える」という表現を使っているが、β波が減りθ波が増えた脳は、感情を抑えていると言うよりも「感情を解き放った末に沈静化した聡明感」と言った方がふさわしい。

番組ナレーションで「感情が荒ぶり怒ることで体内にはコルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。このコルチゾールが過剰に分泌されることで、肌の水分を保持するセラミドを分解してしまう可能性があることが分かってきました。ゆっくりと息を吸って深呼吸し、怒りを抑えることが潤いのある美肌を保つために重要なのです」と。

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続いて、日比野佐和子医師(2年前に読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」~アンチエイジング第2弾「脳活」 カラオケで脳は若返る!?~で私が脳波測定した際にスタジオで解説された先生)による美肌解説と効果的軽運動/食事が提案された。

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さらに、歳三ならではの空間把握能力が紹介され、スタジオでタレントさん達が空間把握課題に挑戦した。

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そして、同志近藤勇が新政府側に斬首されたのを機に絶望し、そのグリーフ(死別などによる深い悲しみ。悲嘆。苦悩。嘆きのストレス反応。立ち直るのに数年かかる場合もある)状態から立ち直って再び戦う気力が戻ってきた理由が考察された。

番組スタッフは、歳三がグリーフで引きこもっていた会津東山温泉へ向かった。そして、心の傷をすみやかに癒やした原因は、“流れる温泉”にあるのではないかとした。

効果1.~流れの振動が血流量を上昇させる~
流れる浴槽と流れない浴槽で、血流量がこれだけ違う。

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そのため、血液に含まれる鉄分が十分に脳に行き渡り、鉄分を材料に生み出される神経伝達物質セロトニン(抗うつ・抗不安効果をもたらす)が増える。

セロトニンの効果として、論文「うつ・不安にかかわる脳内神経活動と運動による抗うつ・抗不安効果」北一郎 大塚友実 西島壮(2010年)が紹介された。

効果2.~せせらぎの音がリラックスさせる~
聴覚では聞こえない2万ヘルツ以上の超音波振動にリラックス効果がある。

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超高周波数音の効果として、論文「自然環境の発する音(超高周波数音)が人に与える影響」環境科学研究所(石田光男 齋藤順子 永井正則 山田博之)・工業技術センター(岩間貴司)(2010年)が紹介された。

面白かったのは、超音波が届く距離の測定だった。

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せせらぎ音の発生源から数メートル離れるだけで、リラックス効果がある超高周波成分はガクンと減るそうだ。だから、出来るだけ川の近くにいた方が良い。

これを解説されたのは、日本音響研究所の二代目所長 鈴木創氏だ。

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鈴木氏ともテレビ番組の別々のVTRでたまに共演する。今でも人気なのが、ブログ「CDとレコードを聴いたときの脳波。違いはあるのか? 日テレ『所さんの目がテン!』からのオファーで分かったこと。」で、多くの読者を集めている。

今回も沢山の示唆とご縁を頂いた。感謝。


セルシネ・エイム研究所 和田知浩
https://selsyne.com/aim/

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